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2008年10月30日木曜日

インスブルックとザウスブルグ







オーストリアのインスブルックは、街のどこを見ても 背景に雪山がある、素晴らしい街。 ホテルの窓から見える雪山と街の灯は、美しく、明け方、上ってくる太陽の光をあびた山々の輝き、そして光がさして来て徐々に街が目覚めていく様子が美しく いつまで見ていても見飽きない。 インスブルックを離れたくない。山のある光景が どんなに人の心に潤いと、落ち着きを与えてくれることか。オーストラリア大陸の平板な土地に暮らしていて、毎日の風景の中には山も、谷も、川も湖もない。窓を開けた時に 山が見えたらどんなに素晴らしいだろう。
しかし、旅は続く。 人は生まれるとき、場所も環境も、とりまく社会状況も 自分で選ぶことは出来ない。生きていくうちにそれを変える事はできる。しかし、全部はとても変えられない。部分だけだ。

インスブルックでは、過去2回、冬季オリンピックが開催されている。街から山に残されたスキージャンプ台が見えて、木々を伐採して作られた周囲が無残だ。地元の人がスキーを楽しむのはさぞ楽しいだろう。しかし国際試合のために山を切り刻み、ジャンプ台など作って自然を破壊した残骸を 雪のない時期に見るのは悲しい。
ジャンプ台の真下に ウィルテン バジリカ(WILTENER BASILLICA)という、ロココ調の教会がある。外側は普通の教会だが、内部が素晴らしい。白と金色に輝く装飾で 祭壇は目の覚めるよう。丸天井はカラフルな絵、壁の一つ一つが入念にデコレイトされていて無数の絵と彫刻で埋められており、芸術の極致。山に囲まれた美しい街に住む人々の心の豊かさを示すような 美しい教会だ。

この美しいインスブルックに2,3年 暮らしてみたい気持ちを残したまま、バスはザウスブルグに向かう。 毎年、ザウスブルグ音楽会が開かれる モーツアルトの生誕の地。強力な大司教が支配してきた歴史から、イタリアとの結びつきが強く、荘厳な寺院やイタリア風建築物が多数ある。 モーツアルトの生家を訪ねる。
何年もヴァイオリンを弾いて来て、好きな作曲家は、と聞かれると、いつも躊躇なくモーツアルト、と答えてきた。いつも良い演奏家によるモーツアルトの曲を聴くと 貧困のどん底にあって、これほど美しい曲を 自分の命を削って つむぎ出したモーツアルトの短い一生を思って泣きたくなる。モーツアルトが大好きだ。彼が生まれたアパートを見上げ、狭い階段を4階まで登る。 入場料6,50ユーロ。

意外なことに 家の中を見て回ったが、あまり感動もしなかったし、インスピレーションも受けなかった。人が多すぎる。部屋の一部がお土産屋になっていて、彼の顔写真つきのチョコレート、彼の顔のボールペン、彼の鉛筆立てを ぶったくりというような値段で売っている。通俗すぎる。彼が生まれた部屋に、ベビーベッドがあって、中に人形が寝ているのは 気持ちが悪い。悪趣味だ。 それでも、木の床をミシミシ踏みしめながら、当時、この家の人々が寒さを凌いだ 陶器製のヒーターに触れ、天井の低さを感じ、窓から乾いた空気を胸いっぱい吸ってきた。

ザウスブルグに来て、サウンドオブミュージックが好きな人は、ここでトラップ一家のあとをたどり、マリアが居たノンベルグ修道院や、家族が隠れていたザンクペーター教会や、一家が音楽祭でエイデルワイスを歌った野外劇場などを 見て回るツアーに行く。けれど、わたしは無視。限られた時間に何もかも見ることは出来ない。

街からバスで、私と娘は ヒットラーのイーグルネストを見にいった。1834メートルの山の頂上にヒットラーのために建てられた山荘、イーグルネストがある。ヒットラーを現人神として熱狂崇拝していた マーチン ボーマンがヒットラーの50歳の誕生日にプレゼントした山荘だ。山荘に通じるふもとにはヒットラーの私邸や、2000人のSS 親衛隊の住居があったそうだ。
現在はオーストリア政府観光局のものになっていて、5月末から10月までの夏の間 山道を往復する特殊なバスで、アクセスできるようになっている。バスの終点から歩いて124メートルのトンネルを通り抜け、124メートルの高さのエレベーターで 頂上の山荘に行く。

硬い石灰石でできた山を切り開き、いくつものトンネルを掘り、資材を運び、山の中央を掘りだし ぶち抜いて山頂に至るエレベーターを作った。この無謀な建設には 当時ドイツの最新の技術が使われたという。 124Mのトンネルの頑強、堅固な姿はあきれるばかり。そしてエレベーターは、天井も壁も、床も金色に輝く箱で、その豪華なこと。今まで見たこともない立派なエレベーターだ。ヒットラー50歳の誕生日に最大最高の贈り物をしたかった信奉者の狂気が充分うかがえる。 山荘には大きな暖炉のある大広間、ヒットラーの部屋、秘書で死ぬ前に彼の妻となった エバ ブラウンの部屋などがある。今はレストランとして観光客に利用されている。山荘から頂上までは50メートルくらいの きつい登りで山頂に立つことができる。素晴らしい眺め。紅葉で山々が色とりどり。とても寒い。山荘に戻って ランチ代わりに アップルケーキとコーヒーをいただく。12ユーロ。

夜は街に下りてきて、デイナーは カステラー二 パークホテルで またチキン、、、泣けてくる。ホテルの部屋に戻ると 部屋の気温が29度もあって、暑くて寝られない。娘がレセプションに電話でエアコンを入れるように頼むと 「今は秋だから エアコンはない。暑いなら窓を開けてください。」と言われる。これには笑った。それからは、しばらくの間 「今は秋だから」を連発して娘と笑うことになる。外は寒いのに部屋の気温が29度なのも、暑くて眠れないのも、携帯電話が何故か使えないのも、ホテルにコンピューターがないのも、寝坊して朝食をかきこむことになったのも、みんなみんな秋だから、、、というわけだ。  

写真1は モーツアルトの生家
写真2は ヒットラーのイーグルネスト
写真3は インスブルックの教会