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2008年9月15日月曜日

映画「IN BRUGES」



ブラックユーモアは嫌いではないが、人の死を笑うようなブラックなユーモアは好きになれない。 職業柄、余りにも 毎日が死に満ちている。死にたくなくて、死んでいく人ばかりだ。そうではなくて、自分の命を充分生きたという満足感をもって 豊かな気持ちで心安らかに旅立たせてあげることが 使命のひとつでもあると思っている。 心臓外科病棟の忙しさに疲れて、エイジケア(老人ホーム)に勤め始めて2年になる。人々は死ぬ為に、ここにやって来る。家族は世話を拒否、病院での加療で治癒することは望めない、長期療養施設も、徘徊や失禁が進むと手がかかる為 出されてしまう そんな人が集まってくるエイジケアは 人生の終着点だ。だから入口はあっても、出口はない。 この2年間に沢山の患者を 心をこめて見送った。そこに笑いはない。

映画 「IN BUUGES」を観た。
各地ホイッツで上映中の新作。
監督:MARTIN MCDONAGH
俳優:COLLIN FARRELL    
    BRENDAN GLEESON   
    RALPH FLENNES
邦題にすると「ブルジスにて」だろうか。ベルギーの古い中世の雰囲気の残っている街の名前だ。クエンテイン タランテイーノの「パルプフィクション」のヨーロッパバージョンとも 評価されているようだ。不真面目ともまじめとも言えない殺人のお話というか、ブラックユーモアの映画。

ブルジスに2週間後に 行くことになっている。それが理由でこの映画を観た。それ以外に こんな人の死をブラックに笑う映画など観る理由がない。「パルプフィクション」も大嫌いな映画だった。

映画は 16世紀の中世の趣を残した 伝統的な手縫いのレースと観光で生きているブルジスの街が 舞台だ。古い町並み、石畳、人々がテーブルと椅子をだしてカフェを楽しむ中央広場、高い時計台、いくつもの古い教会と宗教画、街の中央には運河が走り、観光客を乗せたゴンドラが浮かぶ、河には白鳥、夕方になれば霧が出て、幻想的な中世の世界が広がる、御伽噺のような街だ。

ここに、ロンドンでドジな仕事をしてしまった二人の殺し屋が 事件のほとぼりが冷めるまで 留まるように命令されてたどり着く。小さな町は観光客でいっぱいで、狭いひとつの部屋に 年老いた殺し屋:ケン( BRENDAN GLEESON)と、若い殺し屋:レイ(COLLIN FARRELL)は滞在することになる。 レイは 知らない街で、することもなく、イライラしどうしだ。太い眉毛が8時20分を指していて いつもお母さんにしかられたような 情けない顔をしている。この街で 映画撮影に来ているアメリカ人と知り合い、オランダ人の娼婦にゆきずりの恋をする。レストランで喧嘩になって カナダ人夫婦をぶんなぐったりもする。ブルジスの街で アメリカ人、オランダ人、カナダ人、が出てきて、ケンはイギリス人、レイはアイルランド人という だれも皆が 異邦人であるという設定がおもしろい。

そうしているうちにケンとレイは ボスからの指令を受けて、教会の牧師を殺しに行く。レイは またまたドジなことに 牧師を撃った時 同時に、祈りに来ていた少年を撃ち殺してしまう。この少年は「良い子になれますように、算数が得意になれますように」という神様にお願いを書いた紙を握り締めて死んでいた。この少年がものすごく美しい。清らかで美しい魂が巻き添えにあって倒れ、あわてふためく殺し屋の愚かさ加減が滑稽だ。それで、レイは陰鬱な中世の街で何もかもうまくいかない上、子供を殺してしまったことで自分を責め始める。

そんな時 年老いた殺し屋のケンはボスから 相棒のレイはもう使い物にならないので始末するように という命令を受ける。命令とはいえ自分の息子ほどの年齢で、妙に気の弱いレイを殺すのが忍びない。かといって命令に従わない殺し屋は 次には殺される番だ。ケンは命令に従う決意をして、出かける。公園のベンチに座っているレイを見つける。幸い彼はケンには気がつかない。ケンは消音機つきの拳銃をもって、後ろからそっと近ずいていく。カメラがズームしていき、ケンがしのび足でレイの背後に立ち、銃の引き金を引く緊張感の頂点で、レイが同じ瞬間に自分の銃で自殺を図る。まさにケンが引き金を引いて撃とうとした頭を ケン自身が引き金をひいて撃とうとした 、、その緊張の瞬間、爆発的な笑いが起こる。殺そうとしている相手が自殺しようとしたら、殺し屋は その瞬間 どんな条件反射を示すのか。
ケンは夢中でレイの銃を奪って 自殺を食い止めて、生きるように教え諭す。このブラックユーモアが とても笑えるところ。

そんなこんなで、ロンドンのボスが 二人の殺し屋を殺しにブルジスにやってくる。ボスを演じるのが RALPH FIENNES。この彼がメチャメチャうまい。目の光り方が尋常ではない。完全に狂っている。激情に走ってどんなことでもする。体だけ大きな幼児のように 怒ると止めようが無くなって 終点まで行くしかない。なんだ、二人の殺し屋のボスって、ただのオタクだったのか、と笑える、というか笑うしかない。
ラルフ フィネズは、「イングリッシュ ペイシャント」や、「ナイロビの蜂」を主演した俳優で、私は大好き。礼儀正しく、シャイで、チャーミング。ソフトで優しくて紳士の鏡みたいなイギリス人役者。この彼が およそ自分と正反対の役で、汚いアメリカ言葉、一つの単語にひとつのF***言葉をつけて 怒鳴り散らし 銃を撃ちまくる。これが おもしろかった。

この映画 面白いから観てみて、とは誰にも言わないけれど、良い俳優を使っている。人生を皮肉とブラックユーモアで 乗り越えなければならないときもあるだろう。こんな映画が割合 評判高いというのも、わかる気もする。 3週間後には、この街の石畳を踏むことになる。殺人や騒動に巻き込まれることはないだろうが、旅行中は 気をつけて行きたいと思っている。