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2007年11月2日金曜日

宮本武蔵


小説「宮本武蔵」津本陽、文春文庫400ページ を読んだ。何故って、すごく尊敬している かの高名な井上雄彦の、「バガボンド」の続きが気になって気になって仕方がないからだ。

3月に休暇で帰国したとき「バガボンド」の21巻から25巻まで買ったのだが、その続きは、もう日本では出ていると思うけれど まだ読めないでいる。執拗に追ってくる吉岡一門の 一乗寺下り松で次から次へとゴチャゴチャ出てくる門下の武士との、壮絶をきわめる決闘の行方が、気になって、、、。 それと、武蔵と、小次郎との雪だるまをめぐっての 初めての出会いがとっても良かった。ぺチャぺチャ音をたてながらご飯を食べ、グズッぐるるーとかいって、雪だるまと遊ぶ小次郎が ものすごくかわいい。

仕方なく漫画の代わりに この小説を読み終わって、武蔵の禁欲的で、自分を律し、肉体の限界まで訓練によって痛みつけながら武芸ひとすじに生きる武蔵の厳しい生き方に 痛みを伴った感動をおぼえる。彼が、仏教、老荘思想に通じ、書をたしなみ、良い字を残し、絵心もある立派な教養人でもあった という事実や、兵法のもとになる「五輪書」だけでなく沢山の剣術の教科書を残した ということも、この伝記を読んで初めて知った。 武蔵は 1584年天正12年、美作国で 平田武仁,竹山城主新免伊賀守の家老職の 第3子として誕生。父は剣術と十手術の名人で武功をたて、将軍から天下無双兵術者の称号をもらった。父は武蔵の武芸の才能を早くから見抜いて、兵法のすべてを受け継がせるべく武蔵7歳から激火の勢いで木刀の訓錬をし、13歳では、真剣を使って徹底して武蔵を鍛えぬいた。14歳で 宮本道場で 武蔵に互角で戦える武士はいなくなったという。

漫画でも鬼のような父親がよくでてきたが、どうしてどうしてそんなに父親は武蔵にだけは 厳しくしたのだろう。性格破綻者だったとしか言いようがない。赤ちゃんのときに母親を亡くし、後妻にはいった継母が武蔵を実子以上に可愛がってくれたのに、武蔵3歳のときに、父親は離縁、末息子の武蔵を継母と一緒に家から出してしまう。継母の再婚以降は 武蔵は寺にあずけられる。
ひとつには、長男(武蔵の兄)が父親からの木刀の訓練を受けていた時に足腰を痛めて身障者になったこと。頼りにしていた後継者の長男が不具になって やけくそになっていたんだろうか。
それと、父の不祥事だ。62歳の老境にあった父が 自分の兵法の後継者と頼んでいた武士を、主君の命令で討ち取るようにいわれたが、すでの実力では彼の首をはねることができなくなっていたので、複数でだまし討ちをして処分する。この不名誉な出来事で 将軍からは認められるが、家中のものから卑怯者の烙印を押されて、城に上がることができなくなって、それが原因で宮本村、美作を去らなければならなくなったこと。まあ、なにが、問題だったのか、父親は 末息子の武蔵だけをのこし、他の兄弟を連れて、武蔵が16歳で元服するのを待たずに、九州に移住してしまう。鬼のような父。

武蔵は16才で元服、父親の不祥事で父の俸禄を受け継ぐこともできず、親に捨てられ、受け継ぐべき財産もなく、孤立無援の身だった。16歳にして、父もなく母もなく、自分の生活の基盤をたてるには、いくさで手柄をたてて、城主から認められる以外には生きる方法がなかった。それで、武蔵は武者修行の旅に出るのだ。天下一強くなって、一国一城の主になり 妻にお千を迎えることを、夢見ながら。 ,,, 

「武蔵は野犬のように土埃にまみれて歩き、疲れきって路傍に伏す日をくり返す。夢中で歩き続け気ついたときは紀州熊野の山中にいた。このとき彼は、禅寺の老師から教えられた古歌を思いだす、「いまという いまなるときはなかりけり、まの時くれば いの時は去る」という。過去は過ぎていき未来はいまだに来らざるものである。」,,,たしかにあるのはいまのみであるという言葉が、今を生き,剣に命をかけて生きる 彼の生き方を正確に言い当てている。

13歳で香取神道流有馬喜兵衛と決闘して木刀で撃殺、関の原の合戦、吉岡清十郎、吉岡伝七郎、薙刀の黒岩因幡守、伊賀の鎖鎌の宍戸などを破り、負け知らず。そんな暮らしの中でも、槍術の宝蔵院の宗家甍栄との友情が、良い。また武蔵が名古屋の通りを歩いていて、すれちがったときに、互いに今まで逢ったことがなかったのに、その隙のなさから、相手が柳生兵衛助利厳だと、わかり、相手も名乗る前に武蔵と認識して、笑顔で名乗りあった、というエピソードもおもしろい。

「我道には有構無構といいて、構はありて、構は無きというなり。」と、「五輪書」にあるというが、武蔵は構えという戦いの固定した型をきらった。型を作るのは容易ではない修行を必要とするが いったん出来上がってしまった型に固執すると自分の型にはめ込むことの出来ない相手とは立ち会えない。従って相手をそのつど よく見て自由自在に立会い相手の欠点を見つけ出して それを叩くべきだ、といっている。いろんな言葉に置き換えて、日常の私達の人への接し方、仕事の仕方にも、通じる、含蓄のある言葉だ。

小説を読んでいても 漫画のリアリテイーでイメージをふくらませながら読んでいるから おもしろい。逆境が人を造る というが、まさに 武蔵はその言葉どうりの人。 早く日本に帰って、井上雄彦の続きが読みたいワー!