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2023年2月23日木曜日

映画「西部戦線異状なし」


原作:エーリヒ レマルク。
1928年にこの作品を発表したレマルクは、これをもとに映画化された映画は上映禁止、出版された本は焼かれ、発売中止、ナチ台頭の時期に重なり敗戦国ドイツの惨状を宣伝したと言うことで国賊扱いされた上、国籍をはく奪され、スイス経由で米国に亡命することになった。 映画の主役を演じたリュー エアーズは、このあとWWⅡで、良心的兵役拒否をして看護兵として、南太平洋の戦地で3年半もの間、働かなければならなかった。

西部戦線とはWWⅠでドイツ軍と連合軍が最も熾烈な戦闘を繰り返したベルギーフランデル地方、フランス北東部の国境近くを指す。わずか数百メートルの陣地を奪い合うために、300万人の戦死者を出した激戦地。ガリポリ、ノルマンデイー上陸などとともに、戦争の残忍さを表す代表となっていて、オーストラリアでも毎年戦死者の遺族が追悼式に渡仏して参加している。
この西部戦線に当時、ギムナジウムに通い大学入試を目指していたレマルク自身が、18歳で学徒志願兵として参戦する。最前線に送られ、親しくしていた学友たちを次々と亡くした経験を、1928年、30歳になって発表、いちやくベストセラーになって45言語に翻訳され、米国のユニバーサルピクチャーが版権を買い、映画化された。ルイス マイルストン監督によるこの作品は、1930年第3回アカデミー賞で作品賞と監督賞を受賞した。

映画は1930年の作品にカラーを付けて、リメイクされたのが1979年。2022 年のいま上映中の作品は、3回目のリメイクになる。ドイツが制作してNETFLEXで、ここ2月に公開された。
映画では、原作者レマルクの体験通り、17歳のポールが仲の良い同級生と共に、老教師から愛国心を掻き立てられて志願、そろって西部戦線に送られるところから始まる。ろくに訓練もないまま数百メートル先に敵兵が待ち構える塹壕のなかで、一人ひとりとポールは友達を失っていく。泥と火薬と毒ガスと、肉弾戦の中で、絶望的な状況と残酷なシーンが続く。

NETFLEXの2022 作品よりも、1930年で1979にリメイクされた作品の方が、わずか17歳のポールの目で戦争が描かれていて、牧歌的なフランスの田舎の風景や、古参兵カデンスキーとの心の交流がよく表現されているような気がする。1979版のラストシーンは有名で、映画好きの語り草になっている伝説的なシーン、ポールが塹壕から飛び立った蝶をとらえようとした瞬間に、撃ち殺されて映画が終わる。若干17歳で志願した若者が、昨日敵兵を銃剣で刺し殺した手で、生き物を見ると思わずデッサンしたくなる美術志望の、傷つきやすい柔らかな心も持った普通の少年だったことを表していて、ただただ悲しい。優れた反戦映画だ。

「西部戦線異状なし、報告すべき件なし。」とは,ポールが死んだ日、ドイツ軍司令部が上官に報告した言葉。
専守防衛だけでなく敵のミサイル基地を攻撃することが国防だ、と言い張る日本の愚かで卑怯な者の口と同じだ。
今年の英国アカデミー賞で、監督賞と作品賞を受賞した。来月行われる95回アカデミー賞でも9部門でノミネートされている。受賞間違いなし。このような時期に、レマルクの残した反戦映画を見ることの意味は大きい。

[All Quiet on the Western Front]
The film is a 2022 German film based on the 1929 novel by Erich Remarque. Directed by Edward Berger and was released to streaming on Netflix. It received 76th British Academy Films Award : the Best picture and Best director award.
The story is : in 1927, 3 years into WW1, 17yeard old Paul enlists in the German Army with 4 classmates, they are deployed in Northern France, trench warfare on the Western Front. Although Paul lost all his loved friends one by one, he ,survived with old soldier Katczinsky on that time at front line lost 3000000 lives. On November Supreme Allied commander gives the German the war imminent end and an armistice that is set to take effect at 11:00AM.
However Paul was shot and killed as many French soldiers at 11:00AM on November11.

This novel was German born Erich Remark based on his own experience in the German Army during WW1, was international best seller at 1930's which created a new literary genre and was adapted into films. His anti-war themes led to his condemnation by NAZI propaganda, and his German citizenship was taken away, then he must escaped to Switzerland and USA.
Watching this Anti-War movie has meaning such a aggressive countries movement right now. Stop killing!


2023年2月15日水曜日

映画「フェイベルマン」

原題:THE FABELMANS
原題通りに訳すと「ファベルマン家の人々」を観てとても良かった。
映画監督ステイーブン スピルバーグの自伝。
今、大人でスピルバーグの映画を、ひとつも見たことのない人は少ないだろう。アカデミー賞監督賞を8回ノミネートされて「シンドラーのリスト」と「プライベートライアン」で2回受賞。1979年代以降、世界歴代興行収入第1位のレコードを何度も塗り替え、単に娯楽映画を製作するだけでなく、ホロコーストの生存者証言を記録する「ショア―生存者映像歴史財団」を作り活動してきた。それが名誉なのかどうか知らないが、英国王室からナイト爵を授与され、独国連邦共和国功労勲章、ベルギーからも王冠勲章、米国大統領自由勲章を受章した。
監督作品を羅列してみると

1971:激突クラッシュ、1975:ジョーズ、1977:スターワーズ未知との遭遇、1982:ET、1985:カラーパープル、1989:インデイージョーンズシリーズ、1993:ジェラシックパーク、1997:タイタニック、1997:シンドラーのリスト、1998;プライベートライアン、2001:AI、2002:マイノリテイレポート、2002:キャッチミーイフユーキャン、2004:ターミナル、2005:ミュンヘン、2011:戦火の馬、2012:リンカーン、2015:ブリッジオブスパイ、2018:レデイプレイヤー、2021:ウェストサイドストーリー、2022:フェイブルマン
この映画はスピルバーグが5歳の時、両親に連れられて見た初めての映画「地上最大のショー」(1952)で、列車が衝突大脱線するシーンに魅せられ、ねだって模型の列車を買ってもらうところから始まる。彼は、その列車を衝突させて16ミリカメラで捉えることで、フイルム造りの面白さに取り付かれていく。
彼は、愛情深いが凡庸な父親と、一緒に住んでいた父親の親友と関係を結び離婚してしまう自由奔放な母親のもとで、多感な少年時代を送る。幼少時代を過ごしたアリゾナからカルフォルニアに引っ越してからは、アメリカ人特有のユダヤ人差別の虐めの対象にもなるが、やがてユニバーサルスタジオに通うようになり、プロの腕を磨いていく。というお話。
テイーンのころ、彼が母親の行状に傷ついていて、その傷をずっと抱えたまま大人になり年を取ったいま、この映画でもってそれを清算したスピルバーグに、とても共感した。誰でも子供時代に人に言えない傷を受け、それを抱えてきていて、どこかで人に言ってしまったことで心が解放される、気持ちが清算される、といった経験があるのではないだろうか。それを彼は映画でやった。

私は彼の作品の中では彼の最初の作品「激突」若干25歳で作られた作品が一番好きだ。NYのサラリーマンが仕事で南部をドライブしていて大型トラックを追い越したことで恨まれ、ただそれだけのことで地獄まで執拗に追われるお話で、この映画ほど怖い映画は後にも先にも見たことがない。彼が映像が与えるインパクトと、悪魔的魅力を叩き込んでくれた訳だ。
おかげでここで、羅列した21本の彼の作品は全部観ている。スピルバーグの観客を引き付ける力量、画面に魅惑させる巧みな手腕に今更ながら感心する。

映画ファベルマン家の人々では、母親役のミッシェル ウィルアム、父親役のポール ダノ、本人役にガブリエル ラベル、達者な役者たちがみな活きていて、とても良い上質な映画に仕上がっている。監督デビッドリンチがカメオ出演していて、お茶目にもジョンフォードの役を演じている。今年のアカデミー賞候補作になるに違いない。観ても損はない。



2023年2月13日月曜日

医療崩壊

英国の医療崩壊が言われて久しい。もとはサッシャー首相による新自由主義による思い切った医療体制の合理化で公費を抑えるために公立医療を営利目的の企業に売りさばき、医療に極端な予算削減を強いた為、優秀なドクター、ナースらが一斉に海外に流出した事柄の上に、3年間にわたるCOVIDによる医療ひっ迫が、問題を露呈させた。救急車は2時間待ち、手術や癌の治療のための入院がすぐできず自宅待機させられ、待っている間に亡くなる人が週に500人という。12月には10万人のナースが職場を放棄して街をデモした。150年の歴史を持つロイヤルナースカレッジにとって史上初めてのデモだったという。インフレによる生活苦にもかかわらずサラリーが5%しか上がらなかったので賃上げを要求してのデモだった。

オーストラリアでも2年余り、政府がCOVIDを予防するという名目で鎖国政策をとったため、スキルワーカーを外国人に頼っていた医療社会では、未曽有の労働者不足に陥った。ナースも待遇改善と賃上げを目標に、病院ごとにナースアソシエーション主導のもとにデモをして、わずかだが賃上げに成功。とくにエイジケアではCOVIDによる国の死亡者の70%がエイジケアのお年寄りだったにもかかわらず、職場に留まったナースたちに、政府からボーナスが出た。そんな程度のことで、ちょっと嬉しかった自分も情けない。実にCOVIDで過去2年間、苦しい思いをしたのだ。

COVIDが老人を死に追いやることが分かって、流行し始めた2020ころ、医療現場で70過ぎても働く私は、まず確約書にサインさせられた。現場に残ればCOVIDに感染し、年齢から言うと死ぬリスクが大きいがそれを理解しており、仮に死ぬことになっても訴訟を起こさない、という誓約書だ。幸い感染せずCOVID患者も看護してきた。現在でも仕事始めに、職場の入り口でラピッドテストをしてから仕事に入り、外科用マスクをつける。1人でも患者や職員で感染者が出れば、マスク、フェイスマスク、ゴーグル、靴カバー、全身を覆うガウンの再登場だ。これをこの3年の間に何度も繰り返してきた。

この3年でナース不足による過重任務で辞めて行った職員は数えきれない。1番の親友だったドイツ人ナースに死なれた。2人の職場仲間は若いのにストロークを起こした。ウィルスという目に見えない敵への不安と、自宅から職場まで往復するだけで、娘たちにも会えない、遊びに行けないといった都市封鎖による心理的ダメージは大きかった。酷い時期にはダブルシフト、18時間勤務を引き受けざる負えないこともあった。そのため互いにカバーしあう仲間同士の友情が育ったともいえる。
政府は2万3千人のドクターとナースが必要だと言っている。海外からのワーカーと留学生に期待を寄せている。

世界的な老人人口の増加により、COVIDが終息しようがしまいが、どの国も医療ひっ迫、国民健康保険の存続が厳しくなっている。資本主義社会では利益になる商業活動が優先されるから、医療と教育は常に取り残される。もう一度、新自由主義の幻想から目を覚まし、国が医療と教育を先導するシステムに帰るべきだ。私は大叔父、大内兵衛が支援した美濃部亮吉の東京都都政で、授業料無料の看護大学で学び、おまけに奨学金までもらいながら資格と取って働き始めた。それがいま必要なのに、どうして今できないのかわからない。
100%返済金なしの奨学金で医学を学んで、優秀なドクターやナースを育てる公立の大学を各県に作るべきだ。現在、日本政府は武器を大量に買い込み、人を殺すことばかりに夢中になっている。人ならば、人を殺すことより、人を生かす医療と教育を。声を大にして叫びたい。殺すな!





2023年2月11日土曜日

死ぬまで立つ

健康寿命という2019の厚生省のデータがある。平均寿命は医療技術の高度化や教育の普及によって伸びるばかりだが、健康でいられるのは日本人男性で8.73年、女性で12.07年も平均寿命より短い。何らかの疾病持ち家族や医療施設の世話になりながら、女性では平均して12年も生きる。例えていうと、自分で食べたいものを掴むことが出来なくて、ただ口を開けて介助者がスプーンで運んでくれるものを食べ、自分でトイレに行けなくてオムツを時間ごとに替えてもらいながら12年も生きることになるかもしれない。

日本に居た時にライセンスを取ったナースの資格で医療通訳をしながらオーストラリアの公立病院に勤め、いまはエイジケア施設で働いている。職場ではナースの下に多数のアシスタントナースが居て、実際のお年寄りの日常ケアに当たっている。アシスタントナースの72%は外国から来た移民だ。もともとオーストラリアでは国民の4分の1が外国生まれだが、エイジケアと障害者ケアの労働力主力は移民によるものだと言える。
施設に入居してくる人たちは、お年寄りだけでなく、アルツハイマー病、精神病、末期の癌患者、末期の腎臓病患者、身体障害者、自閉症患者などいろいろだが、自力で排尿便出来なくなって、自宅で介護できなくなった人が入居してくる。そして施設で死を迎える。

新しい入居者が来るときに1番知りたいことは,その人が立てるかどうかだ。日課として朝食、モーニングテイー、昼食、アフタヌーンテイー、夕食、夜食と食べることの介助に追われるが、その合間にカードゲーム、映画鑑賞、音楽会、バス旅行などに入居者は参加する。なかでも朝いちばんのシャワーと、食後ごとに便座に座らせる介助が介助者にとって大きな仕事だと言える。
人は立てなくなったら、排尿便を自分で処理することができない。歩けなくなっても自力で立ち上がることさえできれば、介助者は、ベッドから車いすへ、車いすから便座へ、排尿便後便座から車いすへ、そこから食堂の椅子へと楽に移動することができる。しかし自力で立てなくなったら、入居者の腰にベルトを着け、機材で立ってもらい、車いすで便座、椅子、ベッドの一連の移動ごとに機材を利用することになり、労力も時間もかかる。
職場では寝たきりの人を作らないために、どんなに動けなくてもシャワーを浴び、食事は食堂で取るから介助者は休みなく入居者を移動させていることになる。こんな介助者の動きを想像してもらうと、どれだけ人にとって食べることと排泄することが大仕事かわかるだろう。それが生きると言うことなのだ。

世界人口90憶人、世界で10人に1人が65歳以上で、2025には6人に1人が老人になる。
老人を毛嫌いする中年オヤジ、女から生まれたくせに女を小馬鹿にする男たち、外国人労働者を2級市民扱いする差別者、ホームレスに暴力をふるう者たち、みんな みんな年を取る。平均して男性は9年、女性は12年他人のケアに頼って寿命を迎えるヒトは、哺乳類の中でも稀有な存在だ。
ならば、医療関係者を尊重し、自分は病気をしないように体に良い食事をとり、適度な運動に励み、社会に貢献しながら年を取る、少なくとも最後まで自力で立てる、ように努力することが大切なことだと思う。



職場の仲間たちと飲み会