2017年8月22日火曜日

ACOコンサート「山」







久しぶりにオペラハウスで、ACO(オーストラリアチャンバーオーケストラ)のコンサートを聴いた。
舞台いっぱいに大きなスクリーンが出ていて、そこに山の映像が写され、それに合わせて舞台でオーケストラが演奏する。音楽監督リチャード トゲンテイと映画監督ジェニファー ピードンとのコラボレーション。二人は3年前から音楽と映像とを同時に満足できる作品を作りたいと話し合ってきた。そこからジェニファーが映像を作り始め、フイルムにリチャードが音を作っていく作業が始まり、遂に完成してコンサートが開催された。

タイトル:「山」
監督:ジェニファー ピードン ( Jennifer peedom)   
音楽監督:リチャード トゲンテイ ( Richard Tognetti)
カメラ:レナン オズダーク  ( Renan Oztuk)
脚本:ロバート マクファラン  (Robert Macfarlane)
ナレーター:ウィレン ダフォー  ( Wielem Dafoe)

演奏された曲
リチャード  トゲンテイ作曲:「プレリュード」、「マジェステイー」、「サブライン」、「ゴッズ アンド モンスター」、「フライイング」、「マッドネス ハイツ」、「オン ハイ」、「ファイナル ブリッジ」
エドワルド グリーグ:「Praludium from Holberg 」suite Op40
フレデリック ショパン:「ノクターン D フラットメジャー」Op27
アントニオ ヴィバルデイ:「四季」から冬 第3楽章と、夏 第3楽章
アントニオ ヴィバルデイ:「4つのヴァイオリンとチェロのためのコンチェルト」
              ラルゲットBマイナー RV580
ジョセフ ナイゼッテイ:「GRIEF」
ルドヴィック バンベートーベン:「ピアノコンチェルト第5番」Eフラットメジャ
                Op73「皇帝」

ヴァイオリン10、ビオラ3、チェロ3、コントラバス1、それにピアノ、パーカッション、フレンチホルン、フルート、バスーン、クラリネットが加わっていた。
ACOはいつも 立ったまま演奏する。練習もリハーサルも立ったまま、3時間の舞台演奏も立ったままで全然平気。コンサートでアンコールには答えないで、演奏で全力を出し切った後はサッサと舞台を後にする。コンサートの後、私が帰る時カーパークで彼らが建物から立ち去る後ろ姿を見送ることもたびたび。この爽やかさ、若さいっぱいで、しかし音の妥協は一切しない彼らをこの20年余り見て来た。寄付金も定期的に送ってきた。

国や自治体からは、資金援助をもらわない、この独立したオーケストラには、熱烈なファンが、沢山いてスポンサーをしている。団長のリチャード トゲンテイに、1743年のグルネリのヴァイオリンを寄付したのも、ザトウ バンスカに1728年のストラデイバリウスを貸与したのもオージーの個人の篤志家。第2ヴァイオリンコンサートマスターのヘレナ ラスボーンに1759年のガダニーニを貸与しているのはコモンウェルス銀行。チェロのテイモ ヴィツコに1729年のグルネリを、イケ シーに1790年のヨハネス クーパスのヴァイオリンを、貸与しているのも篤志家。コントラバスのマクシム ビボウは、16世紀のガスパロ ダサオという楽器を、彼のために再生した篤志家によって貸与されている。良い音を作っている芸術家には必ず地元の良いサポーターが付くという証だ。

映像に使われた山々は、ヒマラヤ山脈、ヨーロッパアルプス、日本の山々。衛星から画像を撮影することができるようになり、ドローンを飛ばすこともできるようになり、山々を撮ることで、今まで見ることができなかった山々の細部まで観ることができるようになった。
また地球上の山はすでに、未踏峰の山は無くなって全部登頂を極められてしまったので、今は、それらの山をどう登るか という段階に入った。エベレストを無酸素で登る。重装備なしに登る。ヘリコプターで頂上まで行き、急斜面をスキーやスノーボードで滑走下山する。パラシュートをもって登り、岩から飛び降りて飛んで帰って来る。ウィンドスーツを着て、山のてっ辺から飛び降りてモモンガ―のように手足をひろげて風に乗って帰って来る。すべて命がけだ。
それでも人は挑戦することを止めない。

山は良い。わたしに青春と呼べるような時期があったとしたら、それは間違いなく山だった。ベトナム戦争が終結して、何か物に取り憑かれたように山に登った。山から帰ると地上の汚れに耐え切れず、すぐに山に戻りたくなった。3000メートル級の岩壁を這いずり回っているから直射日光で山焼けして、顔が腫れて埴輪の様な顔になっても、顔の皮が2枚も3枚も剥がれて来ても、全然気にならなかった。穂高、槍ヶ岳、常念岳、蝶が岳、立山、剣岳、白馬3山、八ヶ岳、谷川岳、丹沢の山々。ひとつひとつの山の姿が目に焼ついていて思い出すだけで夢みたいだ。

「私たちが登る山は岩と氷だけでできている訳ではなく、夢と望みで形造られている。私たちは山を登る。それは私たちの心の山を超えるためであるからだ。」と、この作品を脚本したロバート マクファーレンは言っている。

ACOが演奏したのは、団長でこの作品を監督したリチャード トゲンテイが作曲した作品が多かったが、バロックのヴィバルデイ、クラシックのベートーベン、ロマン派のグリーグとショパン。 ヴィバルデイ「四季」の冬と春の第3楽章は、神々しい切り立った岩壁、氷の岩、人を寄せ付けないヒマラヤのフイルムにぴったりマッチした。ショパンの「ノクターン」は雪に覆われたアルプスの山々の乾いた風、山の空気、雪嵐、厳しい雪山に生きる野生動物たちの姿によく似合う。そしてベートーベンの「皇帝」では圧倒的な山々の力強さを表現する映像で完結する。 山と音楽が好きな人には、どんな映像が流れたか想像することができるだろう。

編集時にサウンド デザイナーとしてこの作品をまとめたデヴィッド ホワイトは「ジェニファーのカメラとリチャードのヴァイオリンとで 美しい詩が作られたんだよ。」と言っていた。本当に映像と音楽とで「詩」になっている。

久しぶりオペラハウスで日曜日の午後を過ごした。チケットはすべてソルドアウトで1席の空きもなかったのには驚いた。でも良い日曜日だった。今夜は山の夢を見よう。