2016年5月28日土曜日

今年のユーロビジョンソングコンテスト

       

今年のユーロビジョンソングコンテストでは、ウクライナ代表が優勝した。
ウクライナ、クリミアに住むタタール人で、ジャマラという若い女性歌手が、自作のおばあさんに捧げる歌を歌って、ヨーロッパ中の視聴者から最高得点を得票した。ユーロビジョンコンテストでは、ヨーロッパ、43か国の参加国のうち、視聴者の誰もが自分の携帯電話を使って、自分の好きな歌手に投票することができるが、自分の国の代表歌手に投票することはできない。
ジャマラの家族は、タタール人だと言うだけの理由で、1944年スターリンによって、迫害されてクリミアから、遠くシベリアまで送られ強制移住させられた。当時、スターリンは、蒙古系のタタール人のような少数民族や、ユダヤ人を徹底的に迫害した。ジャマラは、タタール語でそのときの、住み慣れた故郷を追われた人々の深い哀しみを歌いあげた。

優勝を決めるほどの人々が、彼女の歌に投票したということは、いまヨーロッパでは、かつてない大量の難民が移動していて、故郷を奪われた人々の悲しみが、他人事ではなかったのかもしれない。今年は、中国でも、アメリカでもこのコンテストが実況中継されて、文字通りユーロビジョンコンテストが、世界に発信されて、ユーロだけでなく世界ののコンテストになった。

オーストラリアでは過去30年ものあいだユーロビジョンはものすごく人気があって、年々それも熱を帯びてきている。ヨーロッパからきた移民から成り立っている国だから、自然なことかもしれないが、私がオーストラリアにきたばかりの20年前の頃、オージーたちの異常な熱中ぶりを、不思議に思ったものだ。ヨーロッパから何千キロも離れ、丸一日飛行機に乗っていなければ、たどり着けないヨーロッパは、昼と夜が真逆だし、好きな歌手が出て来ても投票することもできない。それなのに、どうして熱をあげるのか。理解不能。
それが、3年前の2014年ユーロビジョンでは、開催国デンマークで、オーストラリア代表が、特別出場できることになった。その前年の優勝がデンマークだったので、2014年はコペンハーゲンが会場になったが、この国の皇太子フイリップのお嫁さんのマリアが、タスマニア出身のオージーなので、ユーロビジョンコンテストの幕間に特別参加で代表者が歌を披露する栄誉を与えられたのだ。

この時、オーストラリア代表歌手には、アボリジニ出身のジェシカ マウボーイが選ばれてユーロビジョンの舞台で歌った。彼女は音感が優れていて声量もあり、素晴らしい歌手だ。このときは、彼女が歌ううしろを、カンガルーやサーフボードが飛んだり跳ねたりする、愉快な舞台になった。
それがきっかけになって、翌年2015年、オーストリアのウィーン開催のユーロビジョンコンテストに、オーストラリアも他の国々と同様に参加できるようになって、投票もできるようになった。ユーロビジョンは、欧州放送連合の加盟国だけが参加できることになっているが、長年参加を希望してきたオーストラリアが仲間入りすることに、反対する国はなかったそうだ。(何故だ?)
2015年、オーストラリア代表は、マレーシア人オージーの、ガイ セバスチャンが選ばれて、ヨーロッパ代表歌手と同じ舞台に立ち、人気投票も第5位を記録した。

そして今年はオーストラリア代表に、韓国生まれのオージー、ダミー インが選ばれた。小柄ながら驚くほど声量があって朗々と歌う。9歳の時に韓国からオーストラリアに移民してきたそうだが、彼女のパワフルなパフォーマンスは驚くばかりだ。コンテストの結果、オーストラリアは第2位に選ばれた。1位をウクライナのジャマラに奪われたが、1位になっていたら来年はユーロビジョンの開催国がオーストラリアになっていたところだ。

それにしてもユーロビジョンに出場するオーストラリア代表歌手が、始めはアボリジニ、去年はマレーシア人オージー、今年は韓国人オージーが選ばれて、毎年良い結果を出しているところを見ると、オーストラリアが、いかにマルチカルチャー国家かを、宣伝しているかのようだ。アジア人の自分としては、韓国人の健闘が、とても嬉しい。

ユーロビジョンのついでに、、ロギー賞というのがある。ユーロビジョンと同じ5月に、オーストラリアのテレビ界で、一番活躍した人を、一般投票によって選んで表彰する式典だ。普段テレビでおなじみの顔が、アカデミー賞なみに派手に着飾って集まり、テレビドラマで一番活躍した主演女優賞や、主演男優賞なども、同時に選ばれて表彰される。
そのテレビ界で最高のゴールドロギー賞と、シルバーロギー賞の両方を、チャンネル10の報道番組、ザプロジェクトの司会を務める ワリード アリが選ばれた。彼はオーストラリア生まれのエジプト人、イスラム教徒だ。
受賞の席で、スピーチを求められ彼は、自分の本当の名前はモハメッドです。本当の名前を言っていたら誰も雇ってくれなくて就職もできず、今日の自分は無かったことでしょう。と言い、会場を埋め尽くしたテレビ関係者に、軽るーく、カウンターパンチをくらわせて、お祝い気分で浮かれていた人々をシュンとさせてくれた。このスピーチを聞いていて、泣き出したテレビパーソナリテイも居た。注目の場で、本名をカミングアウトした彼は、普段は目に見えないが、依然として、執拗に人々の心に巣喰っている人種差別を指摘してくれた。とても勇気の要ることだが、とても大切なことだと思う。

マルチカルチャー:多民族文化国家に暮らして、ユーロビジョンなどを見ていると、人種差別など乗り越えられているかのように錯覚しそうだ。でも、人種差別の対局にマルチカルチャーを置いて、立派な差別禁止法もあることだし、差別問題がすでに解決しているなどと安易に考えられると困る。差別の根はもっと深い。

(写真は韓国人オージーのダミーイン)