2015年2月27日金曜日

漫画 「ばらかもん」1-10巻


 


こちらでは、漫画は単行本しか手に入らないので、雑誌に連載されたあと単行本になったものを、今まで何年か続けて読んできて、今もずっと愛読している作品が、今のところ8つある。どれも日本でも人気の作品だと思う。
1:「リアル」と「バカボンド」 井上雄彦
3:「聖おにいさん」 中村光
4:「宇宙兄弟」 小山宙哉
5:「3月のライオン」 羽海野チカ
6:「ちはやふる」 末次由紀
7:「きのう何食べた」 よしながふみ
8:「SUNNY」 松本大洋

もう完結して雑誌にも掲載されていないが今だに、処分せず書棚にしまってある漫画は、3つ。本は人類にとって共通財産だから、読めば他の人にあげて少しでも流通させるのが良いことだと思うけど、この3つは所有していて手放したくない。
1:「ファイブ」 松本大洋
2:「岳」 石塚真一
3:「モンスター」 浦沢直樹

ヨシノサツキ著の「ばらかもん」1-10巻を読んだ。
とても絵がきれいだ。九州の五島を舞台に、出てくる子供達がおおらかで素直なうえ純粋で心が洗われるようだ。一人の書道家の人間としての成長と、芸術家としての確立を、あたたかく見守る島の人達と子供達が、描かれていて内容がしっかりしたヒューマンストーリーになっている。とてもおもしろくて、久々のヒットだ。漫画だけでなく、日本では昨年の7月から9月までアニメになってテレビで放映されたようだ。一般に漫画は、作者の独特のユーモアと先鋭的な視点の先取りが、読者を惹きつけるが、人気が出きて、映画になったりドラマになったりすると、ストーリーが読者に迎合して凡庸になる。そんなふうで魅力半減した漫画が 過去にたくさんあった。
この漫画の作者は、実際、舞台になっている島の出身で、いまも居住しているらしいが、今後も、離島の文化をバックに、書道家と子供達の成長ぶりを描き進めて行ってほしい。

ストーリーは
23歳の書道家、半田清舟は自信をもって出展した作品を書院の館長に、頭ごなしに否定されて激怒して思わず館長をぶんなぐってしまう。そこで同じ書道家である父親の命令で、九州西端の五島に送られる。頭を冷やしてこい、という訳だ。子供の時から習字が得意で、沢山の賞をとり、書道家の名家の一人息子として育てられた清舟は、初めて東京の親許から離れて、一人暮らしをすることになる。タイトルのばらかもんとは、元気者という意味。
清舟は、島に到着してみたが、持たされてきたのは郷長さんの住所だけ。飛行機で空港に着いたがタクシーもバスもない。たまたま通りかかった耕運機を運転するおじいさんに拾ってもらって、ようやく村に到着する。お世話になる郷長さんに案内された古い家は、どうやら村の子供達の秘密基地だったらしい。押入れを開けると、そこには小さな女の子が隠れている。女の子の名は、琴石なる。

たったひとりで、自己に立ち向かい己の書というものを極めたい、などと考えていた清舟は、実際島に着いてみると、到着したその日から料理ができるわけでもない、自立からはほど遠い。善良で人の良い郷長さん家族に3食の食事を送り届けてもらい、毎日「あそぼー」と、やって来るなると、なるをとりまく子供達の世話で、徐々に生活ができるようになっていく。そんな世間知らずで不器用な清舟と、それをおおらかに受け入れる村の人々との不協和音が、次第に和音を作り出していく。
というお話。

この漫画の魅力は、天真爛漫を絵に描いたような7歳のなるにある。一方、気難しくて鬱屈した芸術家の半田清舟が、実はなるとは鏡のように同じ、邪鬼のない純粋な心を持っていることが次第に分かって来る。清舟はなるの言動に本気で怒り、なるを追い出したり、投げ飛ばしたり海に投げ込んだり、無茶苦茶をするが、なるも黙ってはいない。いつも本気で、根が素直なふたりは、反発しているようで、互いに魅かれ合っている。23歳の清舟は、なるに自分を先生と呼ばせているが、実際手取り足取り生活の仕方や、人とのかかわり方を教えられ、支えられているのは清舟の方だ。二人は互いに無くてはならない強い絆で結ばれている。

中学2年生の山村美和は言う。「こっちは先住民の結束ってもんがあるけん、簡単に都会の人を受け入れるのに抵抗があるし。しかしまあ、本人を知れば知るほど警戒するのがバカらしくなったけど。」 そんなふうにして清舟を慕って来て、清舟の家を自分の家のようにくつろいでいく子供達が、生き生きと描写されている。
中学2年の美和のスポーツ少女ぶり、親友の新井たまの漫画家おたくぶり、彼女の弟あっきーの大人びた人格者ぶり。しかし何といっても郷長さんの息子、高校3年生の浩志が魅力的だ。彼は就職するにしても進学するにしても、じきに生まれ育った島を出ていかなければならない。両親や、村の共同体から別れ、清舟のお世話係も終わりに近い。進路に悩む浩志に、清舟は、グローブをつけながら、「進路の悩みね。人生の先輩としてオレを選んだのは正解だぞ。あれグローブって、どっちの手につけんの?だいたいなんでキャッチボールしながら相談なんだよ。」 すると浩志は、「ただ座って真面目な話すると恥ずかしいだろ。」 と言って浩志が投げたボールを受けるどころか、顔面に当てて倒れる清舟。 「先生もしかしてキャッチボールしたことないの?」 すると清舟は、「バカヤローやったことなくても出来るわ、こんな小僧の遊び。」 大笑いだが、まっすぐ素直な二人の少年の姿にほろりとする。

腹を抱えて笑ったシーンは、村に一台の黒電話。
清舟が黒電話を見て、「うわっ黒、何だこれ、テレビでしか見たことがない。」 で、彼が文字盤を押しても何の反応もない。横に居る子供達に、「回さなくちゃ」と言われ、清舟は、「知ってるよう。固くて回りにくいんだよ。こうだろ、ほら回った。」 と回したのは良いがそのままなので、子供達に「指離してよかよ。」と。これに清舟は、「知ってるよ、そのくらい。」 しかし、ここを小学校6年生のあっきーに、「完全にまわしてみたものの次はどうしたら、、、。って表情してましたよ。」と言われ、ついでにまた「その前に受話器とらなきゃつながりませんよ。」と言われて、かあーと頭に血がのぼる清舟。

初めてなるが清舟に会った時の会話も笑える。清舟がことのほか美男子なので、なるがびっくりして、「兄ちゃん、ジュノンボーイか?」と聞く。あせって 「ジュノン ちがう ちがう。」と否定する清舟の表情に大笑い。ジュノンの意味がわからなくて、実はグーグルで検索した。「JUNNON」というボーイズファッション雑誌のことだったとわかって、大笑い。

舗装した道路しか歩いたことのない清舟は、岩場など危なっかしくて転んでばかりいる。海に入っても泳げない。料理しようとすると両手血だらけ、不器用で鮮魚をもらっても魚一匹下ろせない。虫が怖い、クワガタも触れない。山に入れば迷子になる。そんな清舟と村の子供達とにやりとりが、ただ可笑しいだけでなく、心が温まり、感動的なヒューマンストーリーになっている。読んでいる内に、潮の香がしてきて、波の音が聞こえて、目の前に青い空が広がって来る。そんな気持ちの良い作品。得難い作品だ。