2013年12月7日土曜日

2013年に観た映画 ベストテン

                     

第一位:「華麗なるギャツビー」
第2位:「ザ ロケット」
第3位:「舟を編む」
第4位:「シルク ド ソレイユ彼方からの物語」
第5位:「ライフ オブ パイ」
第6位:「コンチキ」
第7位:「キャプテン フィリップス」
第8位:「アンナ カレ二ナ」
第9位:「リンカーン」
第10位:「アイアンマン 3」

今年は映画の不作年だった。新作映画を50本ほど観たが、印象に残る作品が少ない。2012年に観た映画ベストテンと比べてみると それがよくわかる。
 

       第1位:「HUGOの不思議な発明」
       第2位:「最強の二人」
       第3位:「J エドガー」
       第4位:「レ ミゼラブル」
       第5位:「ル オーブルの靴磨き」
       第6位:「アウンサンスーチー引き裂かれた愛」
       第7位:「人生の特等席」
       第8位:「ぼくらのラザール先生」
       第9位:「アメイジング スパイダーマン」
       第10位:「バットマン ダークナイトライジング」
これらの2012年に観た、どの作品もいまだに記憶に新しい。マーチン スコセッシ監督の「HUGOの不思議な発明」は、映画史上に語り残される記念的な作品だったし、フランス映画の「最強の二人」も、クリント イーストウッド監督の「J エドガー」も、大型ミュージカル「レ ミゼラブル」も、昨日観たように、記憶に深く残されて、忘れられない。アキ カウリスマキのフランス映画も、「ぼくらのラザール先生」も、会話を最小限に削り取って、映像ですべてを語りつくした素晴らしい作品だった。また大型娯楽作品の「スパイダーマン」も、「バットマン」も、より良き人として生きたいと願う青年が正義のあり方に苦悩する姿が描かれていて、共鳴し共感することができた。
同じく、大型娯楽作品だが、今年のブラッド ピットの「ワールド ウオーZ」、トム クルーズの「オブリビオン」、「マン オブ スチール、スーパーマン」、マット デーモンの「エリジウム」、、、これらは一体何だろう。ヒーローでもなければ、ただの破壊者ではなかったか。正義も信義も人としての苦悩もない ただぶち壊して暴れまわる娯楽作品ばかり。派手に壊して痛快がる、というハリウッド映画がどうしても娯楽と思えない。精神の荒廃ではないか。心のどこかが病んでいる。観客のほとんどの人は、真面目に働いて、真面目に人を愛し、真面目に暮らしているのだから 真面目に良い映画を作って欲しい。

ハイデフィニションフイルムに収められたオペラを5本ほど 今年は映画館で観たが どれも良かった。ニューヨークメトロポリタンオペラも、ロンドンロイヤルオペラも、国立パリオペラも、資金繰りが大変だろうに、本当に良い舞台を続けている。ヨーロッパを起源にもつ600年の伝統をもつオペラを、私たちの次の世代に伝えていくことが、文化人の使命と考える人々の熱意と誇りが支えているのだろう。

第1位:「華麗なるギャツビー」
映画の説明と詳しい内容は、6月12日の日記に書いた。
村上春樹が そのアメリカンな文体の影響を受けた作家、F スコット フイッツジェラルドによる1925年の作品を映画化したもの。原作がよくできていて、感動的なので映画も素晴らしい。豪華絢爛 キラキラ輝いて贅沢で美しい映画だ。

第2位:「ザ ロケット」
映画の紹介は、11月14日の日記に詳しく書いた。
今年のベルリン国際映画祭、最優秀賞、アムネステイインターナショナルフイルム賞、シドニーフイルムフェステイバル オーデイエンス賞受賞。キム モルダウト監督のラオス映画。ラオスという世界で一番激しい爆撃を受けた国では、今も約50トンの不発弾が埋まっている。命の危険を顧みず不発弾から金属を抜き出して生計を立てている人が絶えない。そんな環境にもかかわらず、子供たちは一日一日を全身で喜びあい、笑い合い、悲しみを分け合って明日を強く信じて生きている。子供たちの前に進もうとする姿をして、戦争の愚かさを訴えた、優れた反戦映画。

第3位:「舟を編む」
11月23日に作品の紹介文を書いた。
日本の良さをギュッと缶詰に詰めたような映画。日本人独特の優しさ、労わり合い、あうんの呼吸で仲間が育つ環境、謙虚さ、職場のボスの部下に対する父親のような愛情、仕事への情熱、苦労を共にすることで育つ連帯と愛着、仲間のために無言で犠牲になる潔さ、新人が気が付かぬうちに職場の空気に染まっていく環境、夫を思いやり自分を決して主張しない妻、愛情の示し方が下手だが、心から妻を愛する夫、個を超えて共同体の中でこそ、自分たちの達成感、満足感を充足させる日本人の特性。熱すぎず、ぬる過ぎず、ぬくくて心地よい、温泉みたいな映画だ。そんな日本人であることが嬉しくなる映画。

第4位:「シルクドソレイユ 彼方からの物語」
2月26日に映画批評を書いた。
1958年からカナダを本拠に活躍するサーカス集団シルク ド ソレイユによる7つのラスベガス公演をカメラに収めて編集したもの。カメラに拘るジェームス キャメロン監督が自ら3Dのカメラを抱えて高所に登ったり、水に潜ったりして、動きの速いアクロバットを撮影した。素晴らしいおとぎ話に仕上がっている。人間にはこんなことまでできるのかという新鮮な驚きと感動の連続。本当に夢みたいに美しい舞台だ。

第5位:「ライフ オブ パイ」
1月4日に映画の紹介文を書いた。
これほど豊な色彩の美しい映像を観せてくれるとは、さすがに色彩の天才アング リーだけのことはある。16歳の少年パイが 海難事故に会い救命ボートに、生き残ったトラを一緒に227日間 漂流するお話。インドのまばゆいばかりの色彩のあでやかさと多様さ、色とりどりの花々、美しい動物たち、娘たちの匂い立つようなみずみずしさ、輝く海、大海の日の出と日没、果てしない海原、クジラやクラゲの美しさ、、、。ストーリーなどなくて良い。画面の美しさに目を奪われるばかりだった。

第6位:「コンチキ」
4月23日に映画評。
2013年アカデミーとゴールデングローブ賞候補作のノルウェー映画。ノルウェーの人類学者で冒険家のトール ヒェルダーの実話。彼は南太平洋のポリネシアの人々は、南米から渡ってきた民族であるという学説に至り、それを証明するために、イカダのコンチキ号で南米から南太平洋をめざした。102日かけて、海流に乗って7000キロの距離を航海し、ポリネシアのアモツ島に漂着、ポリネシア人の先祖がペルー人であることを証明した。のちに この学説はDNA検査などから後になって否定されるが、彼の行動力と、なしとげた業績が否定されたわけではない。一本気で行動派学者のヒェルダーの姿がいかにも偲ばれるバル ヘイゲンが好演している。

第7位;「キャプテン フイリップス」
ジャーナリスト出身のポール グリーングラス監督による2009年4月にソマリア沖で起きた海賊による貨物船船長人質事件をドキュイメンタリータッチで描いた作品。主演にトム ハンクスを配したところに映画として成功した鍵がある。たぶん、トム ハンクスの主演した沢山の映画の中で一番良い。100%キャプテン フイリップスに、なりきっている。幾度も生命を脅かされ、その度ごとに、これで一巻の終わりと窮地に追いやられる男の迫真の演技を見せる。最後の頃には恐怖感が最高潮までせり上がってきて見ているだけで呼吸をするのも苦しくなってくる。ドキュメンタリー監督の腕の見せ所だろう。
それにしても巨大なアメリカのタンカーを、ちっぽけなモーターボートでたった4人のソマリア人が襲撃する。そんな海賊たちが勇敢な上、物凄く頭も切れる。荒れる海を4人のソマリア人が巨大な壁のようなタンカーに向かって、少しもひるまず進んでいく姿が、すごい。4人のソマリア人の前に、大統領やペンタゴンや全米海軍、最新のヘリコプターや軍艦や大砲や重装備が何の役にも立たないで、5日間も引きずり回される姿は、痛快にも思える。訓練されたネイビーシールズ、狙撃兵たちも腰抜けにしか見えない。本当の闘いとは、莫大な資金をかけた装備や、最新の武器でもなければ、頭数でもない。信ずる者の強さではないだろうか。

第8位:「アンナ カレ二ナ」
2月18日に映画評を書いた。
ものすごくお金を使って製作された古典、1873年にトルストイによって執筆された世紀の恋の物語。たくさんの女優が演じたが、ケイラ ナイトレイのアンナは可愛らしすぎてミスキャストか。しかし、次から次へと出てくるココ シャネルの宝石も、19世紀のロシア貴族の豪華衣装も、だたそれだけ見ていて楽しい。舞踏会ダンスシーンや、ぺテルスブルグに向かうアンナを追うアーロン テイラージョンソンとの停車駅シーンも、ジュード ロウの夫役も、とても素敵。舞台の作り方が芸術的で、回り舞台をみているような新しい手法で、スピード感があって面白かった。

第9位:「リンカーン」
2月16日に批評を書いた。
リンカーンの伝記という地味で面白くもおかしくもない映画を、一級の役者で作った小品。リンカーン役のダニエル デイ ルイス、妻役にサリー フィールド、息子にジョセフ ゴードン レビット、盟友にトミー リー、、、これだけ贅沢な役者がそろえば、話の筋や内容などどうでもいい。役を演じる姿をみているだけで納得、良い芝居を観た、と感動できる。

第10位:「アイアンマン3」
5月19日に内容を書いた。
これでロバート ダウニー ジュニアのアイアンマンシリーズも終了した。彼がこれ以上アイアンマンスーツを着て、プレイボーイの億万長者を演じるのは、年齢から言っても無理がある。それにしても良い終わり方をした。有終の美というか、すべてのアイアンマンスーツを花火のように夜空に飛ばして爆発させて、彼はただの人間に戻った。「スーパーマン」とも「スパイダーマン」とも、「バットマン」とも違う、普通のオジサンっぽいメカ狂が、いちやくヒーローになってしまったが、やりすぎだったことをよく反省して、もとに人間に戻ってくれて、嬉しい。これで、安心して、ロバート ダウニー ジュニアのアイアンマンって、良かったよねーと過去のこととして話ができる。ほっとした。