2013年11月30日土曜日

島田荘司の「アルカトラズ幻想」

    


本の帯に「構想20年の渾身作」、と書いてある。さらに、それに続いて簡単な本の紹介があるので、書き写してみる。
「一九三九年十一月二日、ワシントンDCの森で、娼婦の死体が発見された。被害者は木の枝に吊るされ、女性器の周辺をえぐられていたため、股間から内臓が垂れ下っていた。時をおかず第二の事件も発生。凄惨な猟奇殺人に世間も騒然となる中、意外な男が逮捕され、サンフランシスコ沖に浮かぶ孤島の刑務所、アルカトラズに収容される。やがて心ならずも脱獄した男は、奇妙な地下生活に迷い込むー。」 
ということだ。作者、島田荘司は、御手洗シリーズなどで、人気のミステリー作家の大御所。私はミステリーは好きだが、女の体を切ったり、貼ったり、つなげたりする猟奇事件ものを 好んで読む人は、かなり重症の女性コンプレックスをもっていて、人格が歪んでいるんじゃないかと思うし、自分の体を試しに切ったり貼ったりつなげたりして見て、痛いことをよくよく経験してみたほうが良いのじゃないかと思うから、好きではない。でも、どうして この537ページの重い本をわざわざ日本から買ってきて読んだかというと、このミステリー小説の内容やストーリーに関係なく、中で、恐竜について古生学者の記述があると、知ったからだ。

子供の時から恐竜が大好き。
2億年前、ジュラ紀にどうして自分が生まれなかったんだろう。まだホモサピエンスは出てきていないけど、、。地球をドカドカ闊歩していたブラキオザウルスの背中に乗ったり、ステゴザウルスの頭の上に登ってみたり、翼竜を自家用小型飛行機代わりに使いこなしてみたりして、まだ噴火、爆発を繰り返す地球を生きて観たかった。飽きずに何時間も小学館の恐竜辞典の絵を眺めては夢見る子供だった。
ピーターポール&マリーの「パフ」では、リトルジャッキーは大人になって、遊び友達の恐竜パフのところに来なくなって パフは泣いて暮らしたと、言うが、確かにそうなのだ。恐竜の寿命は100年から200年。パフが 遊び友達を失って孤独を嘆くのも無理はない。

同じ恐竜でも、スピルバーグが1993年に製作した映画、「ジュラシックパーク」は、面白かった。
原作は、1990年にマイケル クライトンによって書かれたSF小説。スピルバーグによって、初めて映画にデジタル音響システムが組み込まれた。彼の作り出した映像効果が、あまりに本物的で、この映画は大成功して全世界で恐竜ブームを引き起こした。琥珀の中から、蚊が吸血した恐竜のDNAを採取し、その欠損部分をカエルのDNAで補完してワニの未授精卵に注入することによって 恐竜を再生する。現実に琥珀に閉じ込められた虫を私たちは博物館で見たことがあるから、がぜんこうした技術が実際にできることのように思える。映画ではDNAの補完材料だったカエルが性転換できるカエルだったために、自己繁殖してしまい恐竜が人間のコントロール範囲を超えて増えてしまうという設定だった。遺伝子工学が発達した今、思い返してみてもSFとして、少しも古くない。良くできたストーリーだったし、映画も優れていた。島田荘司の「アルカンタズ幻想」も、映画にすると、おもしろい。この小説は、どちらかというと視覚的に受ける作品だ。

さて、「アルカンタズ幻想」だ。
本の中で古生学者バーナード コイ ストレッチャーをして恐竜についての沢山の疑問点を語らせている。まず、アパトザウルス。1904年に米国ワイオミングで全身骨格が出土された。1億5千年前の中世期ジュラ紀に生息していた。体長33メートル、体重40トン。首の長さ13メートル、草食で毎日500キログラムの草を食べていた。泳ぐ能力を持っていないので、陸上で暮らしていたとされる。今日一番動物のなかで体重の重いゾウが、5トンの重さだが、40トンの体重をもつこの恐竜がゾウよりずっと細い足で自分の体重を支えられるわけがない。また13メートルの長い首を、長いしっぽと同様に水平にしたまま それを支えて動き回れるような強靭な骨格や筋肉は、物理的に言ってあり得ない。生物学、考古学、生理学、物理学、地質学など、すべての英知を集めて考えてもこの恐竜はあり得ない。でもアパトザウルスは33メートルの体長で、13メートルの首を水平にしながら、その細い足で歩き回れるわけがないから、といって、のろのろしていていつも肉食恐竜の餌食になっていたかというと、そうではなく1億年以上の間にわたって、100年から200年の寿命を生きた。どうして、それができたのか。

次にテイラノザウルス。1908年に米国モンタナで全身化石が発見された。肉食で体長12メートル、体重5トン。頭だけで前後左右に1.5メートルと大頭で大きな顎と歯を持ち、2本足で歩き、前足はカンガルーのように退化している。肉食で、咬筋力は3-8トンという強力な噛む力を持っていた。ということがわかっているが、この恐竜と同じ重さのゾウが4本足でも、自分の体重を支えて、ゆっくりしか歩けないのに、細い2本足で、大きな頭と体を支え、逃げる獲物を追って、敏速に走り回れるわけがない。生物は大型化すれば 筋肉も大きくなり早くは動かせなくなる。にも関わらず、発掘された化石はこの恐竜がきわめて発達した筋肉をもち、肉食していた証拠を示している。どうしてそのような生き物が、地球上に存在したのか。
最後に翼竜。キリンと同じ大きさの背の高さで体重100キログラム。左右の翼の幅が12メートルで、肉食。今日生きている一番大きな鳥はワタリアホウドリで、翼が3.5メートル、体重12キログラムで、これが飛行する鳥の体重の限度とされる。航空物理学上、体重40キロを超える鳥は飛行できない。大型化した羽を支える筋肉は、重い体重を支えるために敏速に羽ばたきし続けなければ落下する。にもかかわらず、翼竜は1億数千年もの間、肉食を楽しみ、羽ばたきして空を飛び回っていた。どうしてそんなに長い間、生存できたのか。

そこで、バーナード コイ ストレッチャーはある結論を出し、それを証明するために実験をする。
うーん。
で、結論はどうだったかって?わからない。1億5千万年前よりももっと前の地球で起きていたことだ。証人はいない。いや、ゴキブリがいた。ゴキブリに知能を発達させて話ができるように開発して、大昔に起きたことをゴキの先祖がどう語り伝えたか、聞き出せたら真実がわかるかもしれない。この本、猟奇殺人ミステリーが好きで、宇宙の話が好きで、恐竜も大好きな人には読まずにはいられない本だろう。私には、猟奇殺人に興味なく、宇宙の話は難しくて理解できなかったので、この本の前半で恐竜に関するところだけが面白かった。後半は、ミステリーを解くために、あり得ない不自然さが目立ち、興ざめした。まったくミステリー読者に向いていないらしい。