2011年12月28日水曜日

映画 「戦火の馬」


スティブン スピルスバーグ監督、米英合作の映画「WAR HORSE」、邦題「戦火の馬」を観た。1982年に発表された英国作家、マイケル モルパーゴの小説を映画化した作品。早くもゴールデングローブに ノミネートされている。

監督;スティブン スピルスバーグ
キャスト
アルバート:ジェレミー アービン
父 テッド:ピーター ミュラー
母 エミリ:エミリー ワトソン
少女   :セリーン バーケンズ
脱走兵  :デヴィッド シューサス

ストーリーは
ところは イギリスのデボン地方。
石ころだらけの土地を開墾する貧しい農家。
15歳のアルバートは 父が農耕馬として買ってきた馬を見るなり その美しさに心を奪われた。父親のテッドもまた この馬の姿に魅かれて 競売に参加して競り合っているうちに 引っ込みがつかなくなって競り落としてきたのだった。テッドはお金のない農夫の身なのに 農耕馬の代わりに美しい競走馬を買ってしまったのだった。帰るなり、妻のエミリからは、足の細い競走馬に畑作業などできやしない、と叱咤され罵倒され、近所の農民達からは馬鹿にされ、領主からは 借金が増えるばかりだ と笑われる。

しかしアルバートは この若馬に ジョーィと名をつけて、心を込めて訓練を始める。親から引き離されたばかりの若馬ジョーィと、孤独な少年アルバートとの間には、やがて友情が芽生え、ジョーィはアルバートの言うことなら何でもわかるようになっていった。ジョーィは 家族の願いを聞き届けるように、農耕作業も懸命にやって、家族を助けた。

時は1914年。第1次世界大戦が始まる。デボンの街からも男達が率先して志願し戦争に出かけて行った。借金に苦しむ父親テッドは 高額で馬を買いたがっている騎馬隊に、ジョーィを売る決意をする。アルバートは 無二の親友ジョーィを取られるくらいなら、自分も騎馬隊に志願して戦地に行きたいと懇願するが、アルバートはまだ兵役に満たない年齢だった。ジョーィとの別れに嘆き悲しむアルバートにむかって、騎馬隊の隊長は 戦争に勝って必ず連れて帰るから、と説得する。アルバートは 父がボーア戦争に行ったときに 優秀な兵士として表彰され受け取った旗をジョーィのクツワにお守りとしてくくりつけて ジョーィを見送った。

しかし しばらくしてアルバートが受け取ったのは 騎馬隊長の描いたジョーィのスケッチ画と、隊長の戦死の知らせだった。すでに、兵役の年齢に達したアルバートは、入隊してジョーィを探そうと決意する。
戦場は過酷な状況だった。英仏とも、戦況は膠着状態で死者が増えるばかりだった。アルバートは 歩兵として突撃要員として、駆り出されて、、、、
というお話。

映画の最初に、上空からイギリスのデボン地方の映像が映される。どこまでも続く緑の豊かな穀倉地帯、放牧も盛んに行われていて、ところどころに農家が点在する。広がりのある 美しい絵葉書のような景観だ。やがて、カメラが地上に下り、牧場を映す。豊かな緑を背景に 走り回る馬の美しさ。馬の出産、赤子が立ち上がり、歩き出し、母親馬のあとを 飛びまわって跳ねる。愛らしい子馬。風を切り勇壮に走る競走馬。馬の筋肉の盛り上がり。細い足で土を蹴る後ろ足の力強さ。走る馬の その姿の美しさは例えようもない。

そんな美しい生き物が戦争に駆り出され、砲弾をかいくぐり 重い大砲を運び、騎馬隊として敵地に飛び込んでいく。
ジョーィが自由を求めて、鉄条網で体中傷だらけになって 重い木の柵を引きずりながら力つきるシーンや、ぬかるみの中を重い大砲を引く労役を強いられて足を折るシーンなど、胸がつぶれる思いだ。第1次大戦の まだ近代兵器が開発される前の戦争の残酷さ。肉弾戦の冷酷無比な様子は、見るのもつらい。
戦場の非情さが淡々と映像化されるが、しかし哀しいシーンばかりではない。フランス片田舎の少女が出てくる。両親を殺され 戦火に脅えながら、おじいさんと暮らしている。自分が見つけた美しい2頭の馬を 軍に取られまいとして 必死に自分の部屋に隠す。それを見守るおじいさんの優しさ。

自分の馬ジョーィを探すために 戦場に行ったアルバートのひたむきさが胸を打つ。戦争場面が残酷だが、デイズニー映画らしい終わり方をして、子供も大人も楽しめる映画に仕上がっている。そして、強い反戦へのメッセージが込められている。

かつて、世界大戦のために、オーストラリアから136000頭の馬が戦場に送られた、と記録されている。そして帰ってきたのは たった一頭だった。現在、戦争記念館には、一頭の生きて帰ってきた馬、サンデイーの像が建っている。なんという おびただしい犠牲だろう。人が始めた戦争のために、人を心から信頼している動物が利用されて残酷な扱いを受けて死ななければならなかった。改めて、動物達を駆り出していった戦争を憎む。

この映画を撮影するために オーストラリアのゴールドコーストから14頭の馬と、ゼリ ブレンという40歳の動物訓練士が海を渡ってハリウッドに行った。彼女は、戦争で犠牲になったオーストラリアの、136000頭の馬を代表して 映画作りを手伝ってきた と言っている。
良い映画だ。

2011年12月22日木曜日

映画「ミッション インポッシブル ゴーストプロトコル」




クリスマス正月休みは、家族や親しい友達と映画でも観て ゆっくりしたいと思う人は多いだろう。そんなときに観る映画は 豪華にたっぷりお金や人手をかけて作られた大型映画に限る。

トム クルーズの新作「ミッション インポッシブル ゴースト プロトコル」は それにうってつけのゴージャスな映画だ。トム クルーズって50になる、おじさんでしょう、1980年代の映画の人じゃない、などと言うなかれ。実はわたしも この人のことはすっかり忘れかけていたが、この映画を観て すっかり見直した。
やっぱりトム クルーズは ハリウッドの中心、メジャーなスターなのでした。たまたま2,3本主役をやって ちょっとの間 持てはやされて消えていく小粒のスターとは ひと味もふた味も違う。
彼は 単なる役者ではなく、主演もプロデュースも行う。普通、映画界では監督は神様のように偉くて、役者をオーデイションで選んだり、テストをして落としたりするが、トム クルーズの場合は自分が監督を選ぶ立場にある。
というわけで、第4作目のミッション インポッシブルは監督ブラッド バードがトム クルーズによって選ばれた。
ピクサー映画の「ミスターインクレデイブル」(2004)と「レミーのおいしいレストラン」(2007)で2度もアカデミー賞長編アニメ賞を受賞した監督。受賞作は二つともデイズニーアニメと違っておもしろかった。「レミーのおいしいレストラン」では、レストラン街に住みついていて、すっかりグルメの舌をもったネズミと おちこぼれシェフとの友情物語で、笑わせてホロリと泣かせもする よく出来た映画だった。

ミッション インポッシブルは 米国極秘スパイ組織IMFのエージェント、イサン ハンド(トム クルーズ)のスパイ映画。前作2つはシドニーで撮影された。ラペローズという美しい岬の近くに16年前は住んでいたが、そこが撮影舞台になって 自分が毎日 車を転がしているところを、トム クルーズが大真面目な顔でバイクで疾走するシーンなど、ちょっと笑ったけれど、興味深かった。シリーズ4作の中で、これが一番良い。
今回の「ゴースト プロトコール」では 一番の悪役、核兵器テロリストを、スウェーデンの高倉健というか、渡辺謙のマイケル ニクビストが 演じた。スウェーデン映画で大人気を得た「ミレニアム ドラゴンタットーの女」、「火と戯れる女」、「眠れる女と狂卓の騎士」3部作で、主役のジャーナリストを演じた人だ。さすがスウェーデン映画を代表する主演男優、ハリウッド映画に出てきても堂々として立派だ。

ストーリーは
ブタペストの刑務所に潜伏、服役していたイサン ハントがIMFの仲間のよって脱獄に成功。次の新しい仕事は クレムリンに潜入して核兵器に関する最新の情報を盗み出して破壊することだった。
3人のチームを組んで、首尾よくクレムリンの情報室に侵入するが、すでに破壊すべき情報は 何物かによって盗まれていて、作戦は失敗。辛うじてチームは追手の逃れてクレムリンから脱出するが、その瞬間、クレムリンが爆破される。おびただしい死傷者が出て、ハント自身も大怪我を負い病院に収容される。IMFは自分達がクレムリンの爆破犯人にされることを恐れて、ハントたちのチームを「ゴーストプロトコール」によって、IMFとは全然関係がないとして、抹消する。ハントたちは 爆破犯人を捕らえて、自分達の容疑を晴らさなければ、生き延びることができなくなった。

ハントはクレムリンを脱出する直前に爆破犯人とすれ違っていた。彼は核兵器テロリストだった。ロシア警察の追手から逃げながら、ハントのチームは真犯人を追って、モスクワ、ドバイ、ムンバイと移動する。次の 核兵器テロリストのターゲット、米国への核弾頭発射を阻止すべく チームは奔走する。
というお話。

ナポレオン ソロが同じテーマソングでテレビシリーズのミッション インポッシブルを放映していた頃から このシリーズの面白さは スパイの使う武器や小道具の数々だった。
ハントがクレムリンに忍び込むときは ロシア軍将校の制服だが、逃げる時は 制服を裏返すと みごとにフードつきのジャンパーに取って代わる。世界一高い ドバイのビルデイングの130階から 外のガラスの壁に手袋だけで吸い付いて、ぶら下がったりするハイテク手袋。走っている車のフロントグラスに、手をかざすと携帯電話から地図が移ってきて、それを見ながら敵を追うことができたり、さびれた街角の壊れた電話器とか、貨物列車が IMFの司令塔だったり、コンタクトレンズを装着すると 変装していても人を見分けることが出来たりする。コンタクトレンズが、コピーマシンになっていて、文書を読むそばから コピーが送られて行くハイテクコンタクトレンズは 意表をついていておもしろかった。

スパイの使う武器や道具類を軽快な音楽と共に、トム クルーズが、息もつかずにものすごい速さで使いこなすところが、見ていてハラハラドキドキ おもしろい。スパイが使う、こうしたハイテクな道具類を 思わせぶりに じっくり見せながらスローテンポでやって見せたら 嫌味なミスタービーンみたいで、ただの喜劇になってしまう。

追われながら、一刻の猶予もないところで トム クルーズがボールペンで 手のひらにササッと 男の似顔絵を描いてみせ「これ 誰だ?」と聞くと、即座にどこそこの核兵器研究所の誰とかで、その人の経歴までスラスラと 仲間のメンバーが答えてくれる。そんなことは、あり得ないと思うが、映画を見ている時は 完全にスパイ映画の興奮とテンポの早さに巻き込まれているから 疑問に思う暇などない。何でも信じてしまう。
トムが100メートル以上ある高さのカーパークから 車ごとしたに飛び降りたり、大怪我をした身でビルから走っているトラックの屋根に飛び降りたり、川に車ごと落ちて銃弾を浴びせられても 長い間息をせずに潜っていられたり、もう、普通の人だったら20回くらい死んでいるところが、しかし、なんと言ってもトム クルーズだ。絶対に死なない。頭脳明晰で強い男も代表。核弾頭もいったん発射されたが、阻止ボタンを押した為、大事に至らずに済んだ。核爆発は防げてもシェルだけでもハドソン河に落ちたのだったら それなりに結構な被害が出ていたはずなのに、これも、何といってもトム クルーズだ。彼が作戦を成功に導いて 被害など、なかったことになってしまう。そしてそれを皆が信じてしまう。大した娯楽作品なのだ。

昔はスパイものというと、悪人はいつもロシアで、正義はアメリカだった。今回、悪い核兵器テロリストというのが、ロシア人でもアメリカ人でもアラビア人でもパキスタン人でもなく、アルカイダでもヒズボラでもない。資本主義の物質至上主義の社会で、欲にかられた大富豪の資金をもとに、個人が仕掛けたテロだった というところが この時代の世相を反映している。

何の役にも立たないのだけど、痛快で面白い。この映画、一見の価値がある。

2011年12月13日火曜日

クロエの誕生日




12月14日は我が家のオールブラック、クロエの6歳の誕生日。
オメデトウ。つやつやした美しい毛並みの 少々肥満気味のクロエが何事もなく、無事に、私どもと共に健康に暮らしてこられたことを感謝して、祝福したい。
クロエは 私が外から帰ってくると、エレベーターからの足音でわかるらしく、必ずドアのところで出迎えるし、夕食後、テレビニュースを見ていると 必ず膝に乗ってきて、ひと眠りするようになった。ここまで、慣れてくれるのに、1年半かかった。
2010年5月9日の日記に クロエが4歳で我が家にやって来たころのことを書いたが、あの頃のクロエとは本当にすっかり変わった。

みなしごだったクロエは 生まれて動物病院のシェルターに預けられて もらってくれる人を待っていたが、近所の子供のある家庭に引き取られた。クリスマス前だったから、子供達へのプレゼントだったのかもしれない。4年間幸せに 暮らしたと思うが、家族は、今度は子犬を飼い始めた。クロエは子犬に猛然と嫉妬して、いじめていじめて、子犬を殺そうとしたらしい。たまりかねた家族は クロエを、もとの動物病院に持ってきて、安楽死させるように依頼した。病院はクロエを殺さず、しばらくシェルターに引き取っていたが いつまでもは預かっていられない。いよいよ安楽死か、というときに、娘がうちに連れてきた。子供のときから、捨て猫や 傷ついた鳩や病気のミミズクや袋鼠を連れてきた娘だ。娘にとっては 当たり前のことだったろう。

こうして、クロエは我が家に来たが、いったん飼い主から捨てられた猫は簡単には慣れてくれない。全然姿を見せない。いつもベッドの下や、押入れの中や 洗濯機の隅など、人の目の届かないところに上手に隠れていて、探してもみつからない。食事に呼んでも、出てこないで、人が寝静まった頃や、出かけている間に出てきて、食べて排泄している。
そんな状態で一週間したころに、突然居なくなった。そして3週間後に、ずっと遠方の動物病院から電話があり、クロエが保護されていることがわかり、引取りに行った。

クロエは10メートル以上の高さの、うちのベランダから下に落ちたのかもしれない。あるいは 小さな猫ならやっと通れるベランダの隙間を通って、となりの家のベランダに居たのかもしれない。隣の家は クロエが居なくなった日に、引越ししていった。誰かがクロエを見つけて 自分の家の連れて帰り 3週間世話していたのだろう。けれど、その家からもクロエは逃げ出して 彷徨っていたところを動物病院の看護婦に保護され、埋め込んであるマイクロチップで私の名と電話番号がわかった ということらしい。

3週間失踪していたにも関わらず、クロエは歩き回った様子もなく、手足も綺麗で柔らかく、毛並みもつやつやして、痩せもしていない。うちに帰ってきて 網が張り巡らされて、ベランダからもう落ちることも 隣に遊びに行くこともできなくなっていることを確認すると、別に嬉しそうな様子も見せずに、サッサとベッドの下にもぐりこんでいた。抱くと咬む。手を伸ばすと引っかく。犬を殺そうとした猫だ。
1年くらいは変な猫だった。徐々に、冷蔵庫を開けると 自分の食事時間だと思うらしく、足元に寄ってくるようになり、それが食事を要求して、ミヤオミヤオなくようになり、ついでに、甘えて体をこすり付けてくるようになった。

このごろでは のびのびと横で体を伸ばし、おなかを出して眠っている。やっと この家が自分の家だと思えるようになったのだろう。
前、飼っていた猫、オスカーは17歳で死んだ。とすると、6歳のクロエのために、あと10年は、わたしが健康でいなければならない計算になる。それじゃ おちおち病気できないな。

2011年12月6日火曜日

2011年に読んだ漫画ベストテン




今年一年の間に読んだ漫画のベストテンをあげてみる。

1位:「リアル」 井上雄彦 1-11巻継続中 集英社
2位:「聖おにいさん」中村光 1-7巻継続中 講談社
3位:「宇宙兄弟」小山宙哉 1-15巻継続中 講談社
4位:「テルマエロマエ」 ヤマザキマリ1-3巻継続中エンターブレイン
5位:「バッテリー」 柚庭千景 1-7巻 角川書店
6位:「3月のライオン」 羽海野チカ 1-6巻継続中 白泉社
7位:「神の雫」 オキモトシュウ 亜樹直原作継続中 講談社
8位:「一瞬の風になれ」 佐藤多佳子 安田剛士1-6巻完結
9位:「ちはやふる」末次由紀 1-14巻継続中  講談社
10位:「花男」 松本大洋 1-3巻完結 小学館

1位「リアル」
戸川清春、骨肉腫で片足を失った 車椅子バスケットボールチームのエース。野宮朋美、高校時代にバスケットボールのポイントガードで鳴らしたが、中退、挫折していたところを戸川清春に啓発されて、プロの選手のトライアウトに挑戦している。高橋久信、野宮と同じ高校のバスケ出身、キャプテンになって間もなく自動車事故に遭い、脊椎損傷し一生歩けないから体に。リハビリで車椅子バスケに運命的な出会いをする。
3人が3様とも障害や負を背負い、厳しい状況のなかで、生きる心の糧を求めている。3様のリアルな生き方に心から 深い共感を憶える。とても熱い。井上雄彦の描く世界は どうしていつもこんなに感動的で、泣けてくるのだろう。「スラムダンク」から 彼の作品には目が離せない。それにしても このまま「バガボンド」は、未完の名作になってしまうのだろうか。

2位「聖おにいさん」
立川の松田ハイツに住む「目覚めたブッダ」と「神の子イエス」の「最聖コンビ」が現実の日本社会のなかで引き起こす、日々の様子が描かれる。何度読み直しても、ページをめくるごとに笑える。
シッダルタの一番弟子アーナンダ、息子のラーフラ、愛馬カンタカ、梵天、阿修羅、千手観音、天使ガブリエル、ラファエル、ウリエル、ミカエル、ルシファー、ペトロ、ユダ、サタンなどなど、出場者が多くなってきて、ますます笑いが冴える。

3位「宇宙兄弟」
ムッタとヒビトの兄弟は ふたりとも宇宙飛行士。ムッタは月をめざし努力の毎日、弟のヒビトは すでに月面に立ったが、事故の後遺症に苦しんでいる。彼らを支える人々、仲間との友情、兄弟にしかわからない本当の気持ち、、、みな一生懸命だ。

4位「テルマエロマエ」
古代ローマ時代の風呂設計技師、ルシウスが 湯のなかでタイムスリップして「平たい顔族」:日本の湯にやってくる。真面目なルシウスが 日本のおっとりゆったりした湯の世界で 驚いたり感動したりしながら体験した結果を ローマにもどって生かしていく。山間の温泉、下町の風呂屋、家庭風呂、、、案外ローマに共通する風呂文化をとりまく人々が ゆるくておかしい。

5位「バッテリー」
児童文学作家あさのあつこの小説を漫画家した作品。一人のたぐいまれな才能を持ったピッチャー、原田巧は自己中心で周りの人々を傷つけ、一人反逆して苦しんでいる。そんな彼が 自分のキャッチャーをやるために生まれてきたような永倉豪に出会うことによって 成長していく物語。二人はまだ、中学生だ。みなが一生懸命すぎて ヒリヒリと痛い。読み終わって感動の波が 徐々に押し寄せてきて、圧倒される。

6位「3月のライオン」
不幸な環境に生まれて育った高校生が たったひとりで将棋の世界で生きる活路を見出していく。将棋という孤独な勝負に 立ち向かう少年の姿に心打たれる。

7位「神の雫」
ワイン評論家でコレクターでもあった神咲豊多香の息子、神咲雫と 養子の遠峰一青が、父の死後、遺産であるワインと屋敷を争って ワインの銘柄を当てるレースを開始する。ワインの味覚を表現するところが興味深い。森の奥深く静かに佇む湖のよう、とか、荘厳なオーケストラの奏でる和音とか、麦藁帽子を被った少女とか、、。絵が美しい。いくつかのワインを実際に味わってみてみたら、どれも、ただのフルーテイなワインとしか思えなかったけど。

8位「一瞬の風になれ」
安田剛士の描くスポーツ漫画が好きだ。全17巻の「オーバードライブ」では 自転車競技の醍醐味を見せてくれた。今回は短距離走者、スプリンターのお話。優秀なサッカー選手の兄と比べられて、落ちこぼれのレッテルをもらった弟、神谷新二が 親友一之瀬連と一緒に走るおもしろさに目覚めていく。一人で走り一人で勝つことより リレーでチーム全体で走り、仲間達と勝ち抜くことの方が ずっとおもしろい。自己中心だった少年が 仲間意識に目覚め、陸上部の部長になって、チーム全体を統率できる能力を身に着けるまでに成長するまでの成長記録。さわやかで、力強い。勇気が出てくる。

9位「ちはやふる」
かるたで日本一になることは 世界一のチャンピオンになることだ。と心に決めて初恋の人の背中を見つめながら成長していく千早と 太一と新の3人の物語。小学生だった3人が かるたでつながりながら もう高校生になった。全国高校かるた選手権の様子や、かるたで燃える人々の姿が興味深い。

10位「花男」
邪気のない 子供のような愛すべき野球馬鹿な男の話。世間からすっかり浮いている 役立たずの父親を そっと支える妻や 反抗しながらも心ではつながっている息子の3人が かもし出すハーモニーが何ともいえない。松本大洋の絵も、彼の世界も好きだ。

2011年12月4日日曜日

2011年に観た映画ベストテン




2011年も終わりに近付いてきたので 今年一年に 自分が観た映画のベストテンを書いてみる。今年の6月に、上半期に観た映画のベストテンを書き抜いてみたが その時点から余り変わらない結果になった。後半期に 良い映画にめぐり合えなかった。良いといわれる映画はアカデミー賞をねらって、映画会社が1月前後に集中して 公開するようになったからかもしれない。

映画作りのテクニックが進んで、CGを駆使して臨場感あふれるロボット合戦も、何千人もの戦闘場面も、人が飛んだり空を蹴って走ったりするシーンも簡単に作れるようになってきたが、「アバター」で開発されたモーションキャプチャーのテクニックが さらに進化して動物の動きが より自然の動物そっくりに映像化できるようになった。代表的な作品が「猿の惑星 創世記 ジェネシス」で、これは素晴らしい、革命的なテクニックだ。

また、ハイビジョンフイルムで ライブのオペラが 映画館の大画面で観られるようになったことは 嬉しいことだ。ニューヨークやロンドンに飛んで、一流の歌手が歌うオペラの高価なチケットを買って、正装して観に行かなければ見られなかったオペラが 映画館でポップコーンとコーク片手に観られることの嬉しさは例えようがない。過去10年 オーストラリアオペラの定期公演を いくつか観るために 毎年千ドルを費やしてきた。換気の悪いオペラハウスに行くたびに風邪をひいたり、階段の多いオペラハウスで オットが喘息発作を起こしたり、行き帰りの夜の運転でハラハラしたりしてきた。もうオペラハウスには、昼間の公演があるときだけしか 行かないかもしれない。

2010年に観た映画のベストテンは、「終着駅トルストイ死の謎」、「剣岳 点の記」、「アバター」、「インセプション」、「シャッターアイランド」、「ゴーストライター」、「ソーシャルネットワーク」、「リミット」、「インヴィクタス 負けざる者たち」、「ドン ジョバンニ」の10本だった。
今年の10本は、以下の通り。

1位:「英国王のスピーチ」  1月23日に映画評を書いている。
2位:「ザ ファイター」   1月25日
3位:「127時間」     2月24日
4位:「ヒア アフター」   2月15日
5位:「作者不詳 シェイクスピアの匿名作家」11月22日
6位:「オレンジとサンシャイン」6月14日
7位:「ノルウェイの森」   6月27日
8位:「鉄コン筋クリート」
9位:「ドライヴ」      11月14日
10位:「ミッション8ミニッツ」5月11日

1位「英国王のスピーチ」
吃音障害をもった英国キングジョージ5世が 失敗を重ねながらも、スピーチセラピストの力を借り、立派な演説ができる様になるまでの過程を描いた作品。主演のコリン ファースがアカデミー主演男優賞、脚本家が脚本賞を取った。コリン ファースが良かったが それを引き立てたジェフリー ラッシュも演技では秀逸。20年以上 脚本をあたため続けてきた脚本家のスクリプトがよく出来ている。作品として とても完成度の高い映画だ。

2位「ザ ファイター」
元ボクシングチャンピオンだったが 今は麻薬中毒で飲んだくれの兄が 弟のコーチとして弟を成功させることで 弟も自分も救っていく というお話。なんと言ってもクリスチャン べイルのように 捨て身とも言える役者根性で 役になりきる役者を他に知らない。アカデミー助演男優賞を取ったが 彼の演技はアカデミーなどという商業主義的なスケールを とっくに超えている。立派な役者だ。

3位「127時間」
単独登山中に落石に手を挟まれて、身動きが出来なくなり、自ら腕を切り落として生還してきた登山家 アーロン ラストンを描いた作品。ジェームス フランコの 画面から飛び出しそうな元気な若々しさと、ロックンな音楽とが合って、とても良かった。青い空と赤い岩山のユタの自然の美しさに目を瞠った。

4位「ヒア アフター」
大切な人に死なれたり、死に直面した人が どう生に立ち向かって生きて行ったらよいのか3人3様の 心の傷と心の再生が描かれている。クリント イーストウッドの計算しつくした作品作りと、マット デーモンの誠実な人柄を表す演技がマッチして 忘れられない作品になった。

5位「作者不詳 シェークスピアの匿名作家」
シェイクスピアの名で 沢山の戯曲や詩を書き残した作家が 実はエドワード デ べラ伯爵ではないか という推測に立って シェイクスピアの一生を描いた作品。エリザベス1世と秘書官セシルとべラの関係など、歴史的に実に興味深い。また、バネッサ レッドグレープ演じるエリザベスと ライズ イファンのべラが素晴らしかった。

6位「オレンジとサンシャイン」
両国の合意によって 戦前から1970年代に至るまで、13万人もの イギリス人の孤児や親に見捨てられた子供達が オーストラリアに船で移民させられて、教会施設や孤児院で強制労働を強いられたり 性奴隷として虐待されてきた。恥ずべき両国の歴史を明るみに出した力作。犠牲者の現在までの姿をドラマにした作品だが、映画が始まってから終わるまで、見ている人々のむせび泣く声と泣きじゃくる声が絶える事がなかった。映画ばかりでなく、それを観ていた人々の姿も忘れられない。

7位「ノルウェイの森」
村上春樹の小説を ベトナム出身アメリカ人のトラン アン ユン監督が映画化した。高校時代に自殺してしまったキズキと恋人と僕。生と死と、残された者の心の再生が、美しい詩的な映像で語られる。原作のイメージに、とても近い。映像がポエテイックで美しく、音楽も良かった。

8位「鉄コン筋クリート」
漫画家 松本大洋の漫画を 英国のマイケル アリアス監督がアニメーションで映像化した。漫画を読んでいて イメージしたものと ほぼ同じ映像ができていて、兄(クロ)と弟(シロ)との会話がとても自然で良かった。この人の漫画が 大好きだ。

9位「ドライヴ」
ハリウッドのスタントマンが ドライバーとしての腕を買われて強盗の逃走を助けて金を稼いだりしている。ニヒルで何の希望もない孤独な男が シングルマザーと出合って恋をする。ライアン ゴスリングが とても味のある男を演じていて良い。ハッピーエンドにならないところが良い。

10位「ミッション8ミニッツ」
人の脳は死亡する直前8分間の記憶が 死後もしばらく残っている。その8分間に別人の脳がトリップして入り込むと その人の8分間を体験することができる。8分間のうちに爆弾を仕掛けた犯人がわかれば 事前にテロによる大量殺人を食い止めることが出来る。アフガニスタンで脳死状態になったパイロットが何度も何度も8分間のトリップに駆り出されて 犯人探しをさせられるというストーリー。ジェイク ギンホールが好演。手足を失い戦死したはずの軍人が 軍の実験のために死ぬことさえ許されないで 利用される。残酷で 優れた反戦映画になっている。
以上の10作品だ。