2011年5月24日火曜日

メトロポリタンオペラ 「カプリチオ」を観る




ニューヨーク メトロポリタンオペラ公演 リチャード シュトラウス作曲のドイツオペラ「カプリチオ」のハイビジョンフイルムを、巨大スクリーンで観た。
映画はビデオでなく 新作映画を映画館で観る。オペラはCDやDVDで観ず  オペラハウスで観る。コンサートはCDで聞かずに コンサートホールで聴く。本はIPADやPC画面で読まずに 印刷されたものを読む。30年余り そうしてきた。しかし、ニューヨークメトロポリタン オペラの作品が 映画館で ハイビジョンスクリーンで観られるようになって 誘惑に勝てず 上映するたびに足を運ぶようになった。シドニーで レネ フレミングや、プラセタ ドミンゴは 観られない。オペラオーストラリアの オペラハウスでの公演を10年あまり続けて観てきたけれど やっぱりもの足りない。

ハイビジョンフイルムで、オペラでは シュトラウスの「ばらの騎士」、ベルデイの「ドン カルロ」、「サイモン ボカネグラ」、や「カルメン」、「アイーダ」、トスカ」などおなじみの作品。バレエも、ボリショイバレエの「くるみ割り人形」、国立パリオペラバレエの「コッペリア」、ロンドンロイヤルバレエの「ジゼル」、「白鳥の湖」、キロフバレエの「ドンキ ホーテ」など観た。フイルムでは、踊り手の細かい表情まではっきりと見ることが出来て、舞台で観るのと違う、発見や楽しさがある。

今回観たのは、リチャード シュトラウスが 最後に作ったオペラ「カプリチオ」。もともと イタリアのフィレンツェで始まったオペラは 天才モーツァルトの活躍のあと、イタリアオペラの巨人ヴェルデイと、ドイツオペラの巨人ワーグナーの時代が長かった。二人とも悲劇ばかり書いた。
彼らの後に やってきたドイツのリチャード シュトラウスと、イタリアのプッチーニは 楽しいオペラを書いて 大衆の人気を得た。
シュトラウスの「ばらの騎士」は、当時の人々に大歓迎され、また「サロメ」では、オペラに 血のしたたる生首が出てくる斬新な舞台で観客達を驚かせ、興奮させた。テレビや映画のなかった時代、オペラは民衆の 大切な娯楽だったのだ。

「カプリチオ」とは イタリア語で「気まぐれ」の意味。1941年、ミュンヘンで上映された。パリが ナチスドイツに蹂躙されるころ、このような優雅なオペラが上映されていた、ということが、驚きだ。
3時間の舞台に、ほぼ主役のレネ フレミングが ずっと出ている。舞台は伯爵夫人の広間だけで物語が進行していき、舞台背景は全く終わるまで変わらない。

ルネ フレミングは1959年生まれのアメリカ人。ドイツに留学していて、ドイツオペラが得意な人。モーツアルトの「フイガロの結婚」の伯爵夫人、シュトラウスの「ばらの騎士」の伯爵夫人など、貴婦人の役を演じるために生まれてきたような気品あるソプラノ歌手だ。彼女に「カルメン」とか、「ボギーとべス」とか「ラ ボエーム」はできない。

ストーリーは
若く美しい未亡人 マドレーヌの誕生日にどんな贈り物をして、彼女を楽しませるか サロンに集まる若い芸術家達は 議論に余念がない。作曲家、フラマンドと詩人のオリビエは どちらもマドレーヌに求婚しているライバル同士だ。マドレーヌを魅了するのは音楽か、ソネットの詩か、二人とも互いに負けられない。捧げたソネットを マドレーヌが褒めると、フラマンドはそれに曲をつけて マドレーヌの気を引こうとする。
マドレーヌの兄、伯爵は 妹の誕生日の贈物に、芝居を見せたいと考えて、女優のクラリオンを誘い出す。クラリオンは劇場主 ラ ロシェの協力を得て、さっそく芝居の練習を始める。そうしているうちに、マドレーヌを喜ばせようと、サロンにバレリーナが呼ばれ、イタリアオペラ歌手が呼ばれて、それぞれが パフォーマンスを見せる。楽しい見世物をみて、マドレーヌは、作曲家も詩人も役者もバレリーナも歌手もいる。ここで、新しいオペラを作って見せてください。と提案したところで、みんなが一致して、お話が終わる。

指揮:アンドリュー デビス
キャスト
伯爵夫人マドレーヌ :レネ フレミング
伯爵、マドレーヌの兄:モートン フランク ラーセン
作曲家フラマン   :ジョセフ カイザー
詩人オリバー    :ラッセル ブラウン
女優クラリオン   :サラ コノリー
劇場主ラ ロシェ  :ピーター ローズ

序曲が弦楽6重奏で始まる。
これから始まる物語が6人の男女のやりとりであることを予感させるような6重奏のハーモニーがとても良い。オペラのアリアが少なく、3重唱、4重唱、5重唱がたくさん出てきて楽しい。3時間あっても重くない 楽しいオペラだ。
さすがに今一番オペラで人気者のレネ フレミングだ。本当に柔らかい優雅なソプラノの声を出す。それと、伯爵のモートン フランク ラーセンのハンサムで甘い顔とバリトンの素晴らしい声に すっかりノックアウトされた。

ギリシャ悲劇をベースにした「大」悲劇や、人間に苦悩を描いた重い哲学的な物語りは、やはり劇場で観たい。役者達の呼吸に合わせて息を止めたり、ため息をついたり、涙を流したり、舞台と一体になって感動をもらいたい。
でも日曜日の午後、ブランチを食べたあとゆっくりと手足を伸ばすようにして 通いなれた映画館で 美しいソプラノを聴くと、心の底まで贅沢な幸せな気分になれる。そんな 素敵な日曜日だった。