2010年10月14日木曜日

映画「リミット」、原題「BERIED」



こんなに おもしろい映画 近年観なかった。すごい。
低予算。出演者一人。95分の間 たったひとりの役者が ほとんど身動きのできない状態で棺桶に入れられたまま どう救出してもらうか格闘するというお話。

邦題「リミット」 原題「BERIED」。
スペイン人監督:ロドリゴ コルテス
キャスト:ライアン レイノルズ

襲われて気を失った記憶がある。
気がついてみると手足を縛られて 猿ぐつわをかまされて棺桶の中に押し込まれ土に埋められている。暗闇のなかで、何も見えない。これでパニックに陥らない方がおかしい。最低の状況だ。

可能な限り手足をばたつかせて 両手を自由にする。猿くつわを外し 足の紐を外す。手探りでポケットの ジッポライターを取り出して 棺桶の中を見渡してみる。押しても引いても棺桶の木箱はびくともしない。大声で叫んで助けを求める。しかし帰ってくるのは 漆黒の闇だけだ。

突然、足元に転がっていた携帯電話が鳴る。恐怖で全身がケイレンする。狭い箱の中で 苦労して それを足で蹴って 手元まで持ってくる。アラビア語表示の携帯電話だ。応答すると、落ち着いた男の声が、この携帯電話で自分の姿を ヴィデオを撮って、身代金を出すように米軍に懇願しろ、と言う。彼は500万ドルの身代金の為に誘拐されたのだ。携帯電話の電池は半分しか残っていない。時間がない。

彼はポール コンロイ(ライアン レイノルズ)、民間企業に雇われたトラック ドライバー。イラクで 物資運送中に襲われた。彼は携帯電話を使って 991緊急呼び出しに電話するが、電話交換手は冷たく、アメリカ国内以外の緊急には対応できないと すげなく電話を切られる。所属する会社に電話するが留守番電話でメッセージ対応。自分が住んでいたオハイオ警察に電話する。また、FBIに電話する。助かるために 次々と電話するが、どの電話も自分の陥っている緊急事態をわかってもらえない。自宅に電話するが またしても留守番電話。さんざん電話を使っても 助けが来ないと 思い込んで 認知症になって もう自分のことを憶えていない老人ホームにいる母親に さよならを言う為に電話したりもする。

持っているものは ジッポライター、携帯電話、鉛筆、ポケット容器に入ったウィスキー、蛍光棒だけ。絶望、焦燥、生への渇望、混乱。

出演者ひとり、撮影場所は 棺桶の中だけ、照明はジッポライターか 蛍光棒、携帯電話の光源だけ。役者が嘆き、笑い、絶望し、期待し、怒る。良い役者だ。最悪の状況になかでの、喜怒哀楽を 限られた動きの中で 巧みに演じていた。
埋められた棺桶の中で 外界と自分を繋ぐ唯一の命綱が携帯電話だ。真っ暗闇の中で聞くと、電話の声から人々の生活する様子が 手に取るようにわかる。自宅に電話して 子供の声から 夫をイラクに送り出した妻の様子や留守宅のありようが ありありと見えてくる。FBIの事務的な対応から FBIが いかに人命救助からかけ離れてた仕事をしているか、が よくわかる。ようやく受信されたヴイデオから、事情がわかって米軍の担当官が出て、説得力のある話し方で、その人の人柄も見えてくる。たったひとつの携帯電話を通じて 驚くほど広い世界の 様々な役割を持った人々に姿が見えてくる。息を殺して、暗闇で聞いていると、今まで見えなかったものまで 見えてくる。実に 効果的な音の使い方だ。

この映画をみて むかし見た怖い映画「激突」、原題「CRUSH」を思い出した。この映画は どういうお話か というと。
都会に住むセールスマンが 仕事で南部に出張することになった。初めての土地を車で走るうち、一本道の退屈なハイウェイ、道を走る車も 余りない。何気なく前を走っていた 大型トラックを追い越す。すると、このトラックは 意地になって追い越してくる。追い越しておいて それでいてわざとゆっくり走って、イライラさせる。そこで、また追い越すと今度は後ろから追い上げてきて ぐいぐいと後ろから車を押してくる。
そんな調子で はじめは車の追い越し合戦のおふざけだと思っていたセールスマンは これは冗談でなく、本気でトラック運転手が 彼を殺すという明確な殺意を持っていることに気付く。

セールスマンは 北部の人間だから知らなかったけれど、北部のプレートナンバーで 南部の道で、南部の車を追い越すようなことは、してはいけなかったのだ。面子をつぶされたトラックドライバーは セールスマンが どこまで逃げても逃げても隠れても 必ず見つけて追ってくる。警察や人に助けを求めても お構いなしにトラックごと襲ってくる。トラックは背が高いから どんな男が運転しているのか 顔が見えない。太い腕が運転席の窓から見えるだけだ。最後まで この殺人者の顔はわからない。顔のない追っ手から 逃げても逃げても逃げ切れないセールスマンのあせりと 恐怖感が伝わってきて 本当に怖い映画だった。子供の時に 汗びっしょりかいて 怖い思いをした映画は忘れられない。

大人になって あとからこの映画を作ったのは スピルバーグだった、とわかって、ウーン なるほど と思った。監督として初めての作品だったのだ。初監督作品。スピルバーグの才能がきらめいている。

最後に気になったのは、この映画のタイトルは、「BERIED」なのに、邦題が「リミット」だ。どうして原題どおりにしないのかわからない。
詩だって、外国の詩の題を翻訳者が勝手に変えたりしないだろう。題名には 監督ひとりだけでなく、映画製作者全体の意志が篭められているのだ。原題「BERIED」「埋められて」または「埋められた」あるいはべりッドで 良いのではないか。
他に 変な例を挙げると 原題「TAKEN」が、「72時間」になって、原題「UP」が「カールじいさんの空飛ぶ家」になって、原題「マイ シスターズキーパー」が「わたしのなかのあなた」になる。原題「コンサート」が 「オーケストラ」になったのは、なんかなあーと、、、。それにしても「リミット」などというタイトルにして欲しくなかった。日本語のセンスを疑う。

それにしても、実によくできた映画だ。
すぐれた反戦映画でもある。反戦へのメッセージが きちんと伝えられている。
この監督の才能に、注目していきたい。