2010年4月15日木曜日

オルセイ美術館絵画展に行ってきた




パリ オルセイ美術館のポスト印象派の絵画展が 現在 キャンベラ国立美術館で展示 公開されている。12月から4月18日まで、セザンヌ、ゴッホ、ゴーギャン、モネ、スラーなどのポスト印象派の112もの作品が 初めて海外に貸し出されて海を渡ってきた。

これらの絵画はキャンベラのあと、東京の新国際美術館で5月から公開される。そして、東京のあと、サンフランシスコのデ ヤング記念美術館に展示されてから、パリに戻る。キャンベラ、東京、サンフランシスコに住む人達は幸運だ。
この絵画展については このあいだの日記にも書いたので、貼り付けておく。

http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1443709527&owner_id=5059993

もとモデルで歌手のカーラ ブルーの旦那(サルコジ仏大統領)が 繰り返し言っているように もう二度とオルセイ美術館の100点余りの絵画がパリを離れることはないだろう。今後 またパリに行く機会があったとしてもオルセイ美術館まで足を伸ばすことはないだろうし、いまキャンベラに行かなければ一生これらの画を見逃すことになる。日本に行ってしまう前に、どうしても観なければ という強い気持ちで、スケジュールをやりくりしてキャンベラに行って来た。
シドニーからキャンベラまで 飛行機で1時間、長距離電車で4時間30分、長距離バスのグレイハウンドで3時間30分。キャンベラ中のホテルが満員で泊まる所がない と言われていたが 娘がネットで上手にハイアットホテルの予約を取ってくれた。あれこれ迷った末 レンタカーでドライブしていくことにした。

で、今回キャンベラに絵を観に行ったために費やした費用は
1、3時間30分 時速130キロで高速道路を飛ばしたために磨り減った神経と、その分 短くなった寿命。
2、ガソリン込みレンタカー代:$250
3、ハイアットホテル1泊、メシつき:$350
4、キャンベラ国立美術館入場料:$18
5、館内の売店で買った絵の複製ポスターや絵はがき:$100
6、オルセイ美術館絵画集:$50
などなど。

入場時間が指定された入館料をネットを通して 買っていったので、予定時間どうりに入館できたし、充分 ひとつひとつの絵を真正面から接写で見ることができたのは、幸運だった。館内に入った人が ゆったり鑑賞できるように、入場を制限しているので、他人の体が触れるほど混み合ってはいなかった。
絵画展が始まったばかりの頃は 美術館の対応が悪くて大変だったらしい。キャンベラの人口は 90%が 連邦政府に雇われている政治家や政府関係者で構成されている。人工的に作られた たった人口30万人の街だ。そんなキャンベラに 絵を見るために国内だけでなく外国からも人が押し寄せて ちっぽけな街が人で埋まった。ホテルは皆ブックアウト。美術館の入館料を求める人々が並んで4時間待ち と言われ 館外の芝生まで 真夏の炎天下に長蛇の列ができて、病人も出た。美術館としては そんなに人が来るとは思っていなかったのだろう。
絵画展が始まって3ヶ月たって やっと遅ればせながら 入場時間指定の入場券を準備するようになり、混乱が避けられるようになった。

それにしても、画集を飽きるほど見ていたが、本物を観た という満足感は大きい。
印刷技術が飛躍的に向上し、何人もの美術専門家が監修して作られた 安くない画集に印刷された「青」と、100年前に実際ゴッホが描いた「青」とのなんという ちがい。筆のひとつひとつのタッチが 生きて輝いている。100年あまり、人々に見つめられながら輝き続けてきた「青」の美しさが、心に染み渡る。
なんということだろう。こんなに美しい「青」を見たことがない。

ゴッホの「星降る夜」(「STARRY NIGHT」)色彩の鮮やかさ。美術館で鑑賞中の人 だれもが この絵の前で、歓声をあげていた。星の降る夜に、海を背景に、仲良く星を数える老夫婦の姿。小刻みに軽快なピアノ音の奏でる ドビッシーのピアノ小曲が聞こえてくるようだ。内面に こんな美しい情景を描く美を抱えたまま 不遇の一生を終えたゴッホが ただただ痛ましい。生前に売れた絵は、一枚だけ。弟テオに 食べさせてもらいながら絵を描き続け、ゴーギャンとアルルで共同生活をするが耳を切り落とす事件のあとでは 精神病院に入院、37歳の若さで パリ郊外で猟銃で自害。これほど存在感のある絵を描く人は外に居ない。


近代画家の父、ポール セザンヌの 「玉ねぎのある静物画」、光の画家、クロード モネの「日傘をさす女性」、「睡蓮の池」。ゴーガンの「タヒチの女たち」、「黄色いキリストのある自画像」。

ピサロの「火をおこす百姓の娘」の絵が美しい。光と影が、淡く美しい色彩で描かれている。この時代、カンバスを野外のもって行って絵を描くことも 実験的なことだったが その上 百姓女など、どこにでも居る人々を描くことも革命的なことだったのだろう。100年たっても働く女の力強い姿が やわらかいパステルカラーで、詩情たっぷりに見る人に語りかけてくる。

アンリ ルソーの「戦争」が好きだ。戦いが終わり 無数の兵士が倒れ カラスがその肉をつぃばみ漁っている。炎と剣をもった白衣の「戦争」という名の少女が死者達の骸の上を駆け巡っている。キュービズムや、シュールリアリズムのさきがけになった絵だ。彼もまた 亡くなってから やっと作品が人々に理解されるようになった。いつの時代も芸術家たちは 時代を切り開くために命を犠牲にする。

本当の良い絵画展だ。
半分あきらめかけていた私の背中を ちゃんとしっかり押してくれた娘たち、、、ありがとう。

絵は
ゴーギャン「黄色いキリストのある自画像」
アンリ ルソー「戦争」
ゴッホ「星の降る夜」