2009年9月14日月曜日

映画「愛の10条件」


映画「愛の10条件」(原題「THE TEN CONDITIONS OF LOVE」)を観た。
メルボルン国際映画祭で上映されたことで、中国政府が介入し、豪中関係に傷が入ったとされ、外交問題にまで発展しそうになった映画。
やっと、シドニーで一般公開が始まった。

オーストラリア人監督 ジェフ ダニエルズ(JEFF DANIELS)が7年の歳月をかけて作成した 55分間のドキュメンタリーフイルムだ。映画は、「世界ウイグル会議」(本部はドイツのミュンヘン)の ウイグルの母と呼ばれ親しまれている ラビア カーデイル議長の半生とインタビユーが中心に 編集されている。7月5日に ウイグルに暴動が起こって 中国の国家主席がG8の参加を取りやめたことを考えると、メルボルン国際映画祭の開催が7月24日から8月9日、ここに ラビア カーデイルが招待されて講演をすることになっていたことは、実に タイムリーだった。ラビア カーデイルは、講演のあと、在豪ウイグルの人々と 合流して 活発にウイグルの状況を訴えてまわり 中国大使館に抗議のデモに出るなど、亡命者としては、きわめて勇気ある活動を展開してくれた。

7月5日に ウイグル区都ウルムチの暴動の契機は、ウイグルから広東省に出稼ぎにでていた二人の労働者が 殺害されたことで、ウイグルの人々が抗議行動に出た結果だった、と言われている。その後の漢族による仕返しの報復攻撃と、ウイグル人狩りの暴力はすさまじかった。中国側の発表では死者200人のうち、ほとんどは漢族だと言っているが 世界ウイグル会議は、何千人ものウイグル人が殺された、と発表している。棍棒やナタなどで武装した漢族が バスを止め、ウイグル人をたたき出して、男も女も暴力をふるわれているニュースマンの映像が ニュースで繰り返し流れた。

ウイグルは もともとトルコ系民族で ウイグル語を話す スンニ派のイスラム教徒だ。ウイグルの人々は 自分の国のことをイースト ターキスタンと呼ぶ。しかし、中国人、漢民族は、ウイグルのことを、シンジャン プロビンス(新しい地区という意味)と呼ぶ。
ウイグル自治区には 現在868万人のウイグル人が住む。ウイグルには ほかにタタール人、ウズベク人、カザフ人、オロス人、シボ人、キリギス人、タジク人などがいる。しかし、中国の積極的 漢民族同化政策と、移住政策の結果、ウイグルには 漢民族が暴力的に 人口流入し、彼らが政治、経済の実権を握っている。漢族との経済格差は広がる一方だ。抑圧する者と、される者に明確に二分される社会で、暴動は起こるべくして起こった。

2008年の3月に起きたチベット暴動も 報道では僧侶ら数百人が政府機関や通信社、銀行、商店を襲ったといわれているが すべて外国人メデイアは チベット自治区に立ち入り禁止にされ、政府によって報道がコントロールされたので 事実はわからないし、この結果どれだけのチベット人が弾圧され死刑に処されたか 知ることは出来ない。2008年北京オリンピックを前に チベット暴動は 聖火リレーの妨害という形で ヨーロッパにも 広がっていき脚光をあびる結果となった。

7月5日のウイグル暴動は、中国国家主席 フー ジン タオが G8会議に出るためイタリアにいるときに起こった。彼は急遽 事態収拾のために帰国して、かえって注目をあびた。

7月24日に始まったメルボルン国際映画祭で、ラビア カーデイルのドキュメンタリーフィルムが出展されることについて、中国政府から 再三上映中止を求める介入があった。「テロリスト:ラビア カーデイルが、今回のウイグル暴動の中心人物である」と断定しての、介入だった。メルボルン映画祭主催団体に メルボルン中国総領事館から 映画の上映中止と、ラビアの入国中止を求める電話が入り、電子メールの嫌がらせが連日おこり、映画祭のウェブが消されて、中国国旗に変えられたり、映画チケットの予約がネットでできなくなったりした。上映すれば、天津市との姉妹都市は中止になる、という通告がメルボルン市長に送られてきた。
ラビア カーデイルが 会場に来たときも 館外には中国人のデモ隊がピケを張って威勢行動を展開した。また、中国にいるラビアの4人の子供達が 逮捕され獄中に収監、そのうち二人の子供が、母親を「ウイグル分離独立運動のテロリスト」と断じ批判する声明を出し、これが中国側のニュースで流された。中国政府も、卑劣な手を使うものだ。

抑圧する者とされる者、90%の漢民族は 10%の少数民族に思いをはせるだけの想像力をもてるだろうか。中国の同化政策は、少数民族の言語 宗教、文化 習慣を破壊することが目的だ。チベットには鉄道が敷かれ、空港が出来 大資本によるホテルが建ち、中国人の若い新婚がハネムーンに訪れて 異国風チベットのダンスや歌を楽しんで帰っていく。ウイグルも 中国人観光客が押し寄せて トルコ風異国情緒を楽しんでいくが その中国人たちが 少数民族を抑圧し 彼らの自治権拡大、民主化を圧迫していることに気付いていない。

7年の歳月をかけて編集された この映画では、7年間 獄中で政治犯として弾圧され 亡命し、現在アメリカのワシントンに住むラビア カーデイル世界ウイグル議会議長のインタビューを中心に、ウイグルの歴史、文化、自然などが映像化されている。ラビアは、独特のトルコ帽をかぶって髪を三つ編みにした小柄な女性。11人の子供を産み、ウイグルに残してきた子供のうち4人が 政治犯として獄中にいる。フイルムのなかで、彼女はじつによく涙を流すが、声は常に力強く 感情に流されず きちんとしっかり中国政府の批判をする。母なる大地の大きさと強さをもった女性だ。7年間 暗がりの獄中にあって 外の光を浴びて空を見ることがなかった という。

タイトルの愛の10条件というのは、ラビアが夫に示した結婚の条件だ。彼女は新聞で 政府に抵抗運動をした末 監獄から釈放されたばかりの男 ロウジ氏の記事を読み、その男の顔も様子もわからないのに、結婚するために訪ねていって、結婚を申し込む。ハンサムだったので、びっくりした と言う。そのときの結婚の条件は、妻を愛すること、そして国を愛することだ。そして 二人は一緒になり 米国に亡命してからも互いに ウイグルの自治権拡大、民主化のために発言することを止めない。ラビアは声だかに ウイグルの独立を主張していない。フイルムのなかで、はっきり言っている。運動の目的は ウイグル自治権の確立だ。彼女はノーベル平和賞に2回ノミネイトされている。

4人の子供を中国の監獄に閉じ込められて、その子供から 母親を批判する声明を出すことまで強制されて 母も子もどんなに胸が潰れる思いでいることか。しかし、映画は涙ばかりではない。ラビアは 画面のなかで よく泣き よく笑う。 
ドキュメンタリーフイルムの良さが しみじみ感じられるフイルムだった。