2009年1月28日水曜日

映画「ミルク」







映画「ミルク」(原題:MILK)を観た。
アメリカで初めて自分がゲイであることをカミングアウトして市議に選出され暗殺された実際の政治家ハーベイ ミルクの半生を描いた映画だ。 この映画は、12月にアメリカで公開されてすぐに、沢山ある各種の映画賞すべてにノミネイトされてしまった。その勢いで ミルクを演じたショーン ペンが 2009年アカデミー賞で、最優秀主演男優賞を取るに違いない。

オスカーにノミネイトされたのは、「ビジター」のリチャード ジェンキンス、「NIXON」のフランク ランジェラ、「レスラー」の ミッキー ルーク、「数奇な人生」のブラッド ピットと この「ミルク」のショーン ペンの5人だ。

この1月に アメリカで初めてアフリカンアメリカンの大統領が誕生したが、オバマを選出したのは 今まで投票所に足を運んだこともなかった人々だ。これほどアメリカ人が自分の国の政治に注目し、かつての公民権運動に関心を示したことはいまだかつてない。そんな時期だから、この映画は、もうすでにたくさんの賞にノミネイトされていて、あとは、オスカーを受け取る為に壇上に上るだけだ。

監督:ガス バン サント
俳優:ハーベイ ミルク=ショーンペン    
スコット    =ジェームス フランコ    
フェニックス  =エミール ハッシュ    
    ジャャック    =デイエゴ ルナ      
   ダン ホワイト =ジョシュ ブローリン

ハーベイ ミルクは ニューヨークで、1970年 40歳の誕生日にスコット スミスに出会って恋に落ちる。意気投合して、二人でサンフランシスコにやってきて、カメラ屋を始める。店の名は 通りの名前をとって、カストロカメラ。

まだゲイが市民権を得ていない70年代 ハーベイは 自分がゲイであることを公表して ゲイの権利獲得の為にデモに参加したりするうち、カメラ屋は、ゲイの人権獲得運動の拠点になる。また、地元の店主達で組織されたカストロ ブレー協会の事実上の代表者となって 住民の権利獲得のために 市役所と話し合いや 交渉をすることになる。

ゲイはぺデファイルと混同されたり、一般の人からは 精神病の一種だと平然と言われていた時代だ。政治家や教会関係者と公開討論をしたり、ゲイの教職員解雇の破棄や、ゲイ差別撤廃のためのデモを組織したりしながら、彼は カルフォルニア州サンフランシスコ市の市議選に出馬する。 1973年75年と落選するが、選挙のたびに支持者を増やしていって ついに1977年に市議となる。パートナーのスコット スミス(ジェームス フランコ)は、ハーベイが政治にのめりこんでいく過程で パートナーを解消することになるが ハーベイが死ぬまで良き相棒だった。ハーベイは スコットを失ったあと、ジャック(デイエゴ ルナ)と同棲するが 市議選で多忙を極めている最中 寂しさに耐え切れなくなったジャックは自殺してしまう。

ハーベイは市議会の同僚に ゲイの私生活を笑われて、「僕は過去に4人の男と関係を持った。そのうちの4人は死んで もうこの世にはいないんだ。僕にとってゲイであることは冗談ではないんだよ。」と 真剣な顔で言う このシーンは迫力がある。 また、カルフォルニア州議会議員選挙に立候補して 投票数33000票を集めたとき 彼は集まってきた支持者達に向かって「君達は帰郷できるんだよ。みんな育ってきたところから離れて今、ここに居るけど これからは胸を張って故郷に帰ることが出来るんだ。」と、感動的なスピーチをする。ゲイに理解のない土地を追われてきたゲイにとって、帰る場所はなかったからだ。

市議になって、11ヶ月 カストロカメラの仲間はみんな サンフランシスコ市議の部屋に移動して、活動を広げ、市の同性愛権利法案を後援し労働組合と連帯するなど 活動途上だった。 そんなとき、財政的に破綻し、政治的に挫折した元市議ダン ホワイトは、自分の辞職も不幸も すべて市長とハーベイが悪いからだと、考えて 銃を持って、市庁舎に入り込み 市長を射殺、続いてハーベイを銃で殺した。1978年11月27日のことだ。享年48歳。ハーベイは市議になって1年足らず。ゲイの権利運動の殉教者は、このようにして亡くなった。ゲイであることがリスクだとしても、スキンヘッドや右翼や差別主義者に殺されるのではなく、長年共に政治を志し 家族付き合いもしていた身近な友人に 市庁舎で 銃殺されるとは、誰にも予想できなかっただろう。

ハーベイはかねてから ゲイであるための危険性を充分察知していたから、死んだときのために いくつものスピーチをテープに録音していた。伝えたいことが 語っても語っても尽きない やるべきことが多く、越えていかなければならない厚い壁が大きくて、いつも時間が足りないと感じていたのだろう。途上で殺されて、どんなに無念だっただろうか。 殺人者ダン ホワイトは市長とハーベイを殺害して、たった7年の禁固刑を宣告されただけだ。この評決に激怒した人々によってサンフランシスコでは自然発生的に大規模な暴動が起きる。のちにホワイトナイト ライオットといわれる200人の負傷者を出した暴動だ。 ホワイトは5年間服役し、釈放され その後自殺した。

映画は40歳のハーベイが、スコットに一目ぼれをしてキスするところから始まって、このときの二人の姿にもどって 終わる。最初見たときは 二人の会話を聞き流していたが、最後に繰り返して見せられて、ハーベイは スコットに 今日40になったけど50までは生きないよ、といっていた。その会話を見せることによって 48歳 志半ばで殺されていったハーベイの行き急いで逝ってしまった姿を印象付けている。

ところでフイルム編集の技術はよくない。ところどころドキュメンタリーフイルムが入るが、70年代のものだから画面が’ぼやけて、映画のフイルムとのつなぎあわせ方が雑だ。 しかし、ハーベイの真摯で、時代の壁を破った勇気に感動する。 殺される前夜 ハーベイは初めてプッチーニのオペラ「トスカ」を観る。恋人を失い、自らも命を絶つトスカの絶唱に心打たれて 眠れなくて 深夜ハーベイはスコットに電話をする。このときの むかし愛し合った二人の会話のシーンが良い。最初のキスのシーンも好きだが 電話で心と心を通じさせるふたりの姿が何て素敵なんだろうと思う。

ショーン ペンは役者として「ミステイックリバー」、「21グラムス」では強い男、「アイアム サム」では知恵遅れの身障者役、この映画ではゲイの役 何でもこなす。どこからみても100%ゲイになりきっている。役者としても監督としても 高く評価されて良い。

スコットを演じた ジェームス フランコがものすごく可愛いい。この人の笑顔ほどチャーミングな笑顔を他に 見たことがない。この人が出てくると 条件反射的に頬の筋肉がゆるんでしまう。ジェームス デイーンに そっくりで、「スパイダーマン」でハリーをやった。この映画では素裸でプールで泳いで見せたり、ショーン ペンとのラブ ベッドシーンも多い。彼なら何をしてくれても可愛い。

ハーベイの政治活動の後継者になる仲間に、フェニックス役の エミール ハッシュがいる。ショーン ペンが監督をして好評だった「イン トゥー ザ ワイルド」や「スピードレーサー」の主役をやっている。彼なんか、歩き方から話の仕方 しぐさや表情まで、100%ゲイだ。 
スコットが去ったあとハーベイのパートナーになる デイエゴ ルナもすごい。ハーベイに夢中で、どんな新婚の若妻よりも色っぽい。

それにしても、ゲイでは絶対ない ショーン ペンや、ジェームス フランコや、エミール ハッシュや、デイエゴ ルナが、本物のゲイよりゲイにしか見えないゲイを演じるって、すごいことではないか。 こういう姿をみると、演技をする役者ってえらいなあ と思う。

オスカー受賞に賛否両論 いろいろも意見あるだろうが わたしは この映画が好きだ。ハーベイ ミルクのことは 30歳以上のアメリカ人なら皆 知っているだろうが、外国ではあまり知られていないかも知れない。オバマが 大統領になったからといって小浜音頭を踊っているよりは アメリカの公民権運動をよく知る為に この映画を観た方がためになる。