2008年12月30日火曜日

映画「フォーホリデイ」




オーストラリアの人口は 2100万人。
日本の6分の1、アメリカの15分の1、EUの24分の1だ。

英国からの移民で成立して以来 積極的に移民を勧めてきたこの国では、クリスマスシーズンになると 国の半分ほどの人々が それぞれの国に帰国、帰郷してしまうので、街も道路もガラガラになる。

わたしは、クリスマスイブも、クリスマスデイも 大晦日も元旦も 仕事だ。職場まで10分位、普段は最も交通量の多いパシフィックハイウェイを走るが、このところ、車でヒップホップを踊り運転しながら走れるほど、道路は私だけのもの、行きも帰りも ひとつの車にも会わなかった。

文京区千駄木に住んでいた頃も、家の屋根に物干し台がこしらえてあって、東京のど真ん中のそこから 正月には雪を頂いた富士山が くっきりと見えた。通勤通学の車がなくなるだけで、東京の空気がきれいになったのだ。 クリスマス 年末に故郷に帰る習慣は、世界中 鮭が産卵のために川を登るように、自然なことなのかもしれない。

ハリウッド映画「フォーホリデイ」原題「FOUR CHRISTMAS」を見た。 リース ウィザースプーンと、ヴィンス ボーンのラブコメデイー。 心理療法士のケイトと、技師のブラッドは、恋人同士。愛し合っているが、結婚など、まっぴらごめん。二人が仕事をして、楽しく暮らせればそれが一番と思っている。ニューヨークに暮らすヤングセレブの典型的なカップルだ。

クリスマスホリデイには、みんなのように、「クリスマスは帰郷して親と過ごす」ということだけは、絶対にしたくない。南海の島に遊びにいこうと それぞれの親たちには 嘘の言い訳を作って、クリスマスに帰郷できないことにして、勇んで家を出る。ところが飛行場が深い霧に包まれて、すべてのフライトはキャンセル。飛行場で その姿をテレビニュースで、インタビューされて、全国にニュースで流されてしまったので、家族に嘘がばれてしまう。 仕方なくふたりは それぞれが離婚している両親4人を訪ねてクリスマスを過ごすことになる。

訪ねていった、ブラッドの父親の家では、ブラッドの二人の兄も来ていて、その兄達はブラッドを見れば すぐに蹴り上げ 羽交い絞めにして子供時代に いじめ遊んでいたままのことを いまだにする能しかない。散々、痛い思いをして、今度は、ケイトの母の家へ。
彼女はカルト宗教に凝っていて、祖母、母、姉の女ばかりの家庭に迎え入れられて 二人とも奇妙な宗教体験をさせられる。 次に訪れた ブラッドの母の家では、ブラッドの同級生で親友だった男が 母の愛人として暮らしている。クリスマス定例の食事やゲーム遊びの最中にも 二人ののろけ話を聞かされてブラッドの頭には血がのぼる。ケイトの父は孤独に、暮らしているが、ケイトの悩みを聞いてくれるほどの包容力はもうない。

どの家も、まともな家族など一人も居ない。楽しいクリスマスとは程遠いが、なんとか、ふたりとも 親のてまえ、社交上手にその場を切り抜けては、二人きりになったとき 大喧嘩になって、傷付け合う。 この映画のおもしろさは、初めは 親兄弟のことを忘れて、南海の小島に遊びに行くと、宣言して、職場の人からあきれられたり、うらやましがられたりしながら、完全に人々の流れから浮き上がっていた二人が、 ニュースキャスターにつかまって、嘘がばれたために、地獄に突き落とされる思いをするところにある。それだけはしたくなかった「クリスマスは両親と過ごす」 ということが、現実になってしまって、本当に地獄のようなクリスマスを過ごすわけだ。

帰ってみれば、故郷、年を取った親や、兄弟姉妹たちが、昔のままの姿で 心優しく 待っていてくれるわけもない。処は変わり 人は老いる。3組に1組は 確実に離婚するアメリカの「現在」は、こんなものなのだろう。 ラブコメデイーとして、単純で、ひねりも知性も品格もない。人を泣かせることは簡単だが、人を笑わせるには、哲学、知性、品格を備えていないとできない。帰って、新聞の映画評価を見たら、10分の4という最低の点数をもらっていた。

救いは、アカデミー主演女優賞を数年前にとった、リース ウィザースプーンが、とってもかわいい。相手役が、この暑苦しいヴィンス ボーンなどではなく、ジェイク ジーレンハッドとか、ロバート ダウニージュニアなんかだったら、素敵だっただろう。