2008年11月16日日曜日

パリからロンドンへ




後ろ髪引かれる思いでパリを後にして ドーバー海峡を渡る。

船内の乗客を見ていると おもしろい。いかにも東欧からロンドンに出稼ぎに行くらしい青年達。どことなく30年前に流行ったような服装、垢抜けなくて 鋭い眼光 粗野な雰囲気をしている。 同じような感じの逆に ヨーロッパで稼いでイギリスに帰っていく若者たち。船内の免税ショップに押しかける旅慣れない 田舎びた人々。岸を離れても それが見えなくなるまで じっと見つめている青年はフランスに何を残してきたのだろう。かと思うと 船内のスロットマシンに直行してギャンブルに目の色を変える人々。バーでさっそく飲み始める男達。 さまざまなものを抱えて 船で国境を越える人々の様相が 飛行機で旅する人々と 全然ちがうので興味深い。

簡単な昼食を船内で取って ツアーの人達とおしゃべりする。ロンドンに着いたら この人達ともお別れだ。2週間共にヨーロッパの国々を歩き回り、共に食卓につき パンを分け合った。名残惜しい。 南アフリカからツアーに参加した中年夫婦は新婚旅行だ。フィリピンからの若夫婦は 億万長者の放蕩息子とその新妻。カナダから2組の中年夫婦は、4人で固まって、初めから最後までフレンドリーではなかった。オージー女教師とアメリカ人の夫婦とは 一番気が合って よく行動を共にした。アメリカ フロリダから参加した2人の中年女性はどちらも体重100キロを越えていて、文字通りどこに行ってもお荷物だった。バチカンでもルーブルでも歩けなくなって、車椅子を 初老のツアーの男達に押してもらっていた。シンガポールから買い物に来ていた夫婦。そして 5組:10人のオージーたち。ブリスベン、メルボルン、クイーンズランド、そして私達を含めてシドニーなど様々なところから来ていたが 会ってすぐ親友みたいに仲良くなって助け合った。

ツアーに参加した 南アフリカ、フィリピン、カナダ、アメリカ、シンガポール、オーストラリア と、6カ国に人々が一緒に2週間 旅行してみて、印象だけでレッテルを貼ってみると、個人主義で他人が立ち入れない南アフリカ人、お気楽フィリピン人、エゴイストで田舎者のカナダ人とアメリカ人、お金の話しかしないシンガポール人、ということになる。 今回のツアーでオージーが一番多かったが、嫌な人は一人も居なかった。みな、社交上手で紳士的、女性は気さく世話好き、気取りもてらいもなく本当にみな良い人達だった。改めて、オーストラリアで暮らしていて、特に問題も不都合もないのは 人々が ニュートラルで マイルドだからだ と思い当たる。 特に強い個性をもった 激しい主張があるわけでなく、言ってみれば没個性。人が良くて誰とでも合わせられる、適応性豊かなところがオージーの国民性と言って良いのかもしれない。 家でも、オージーの夫と話をしていて、私の言うことを夫は必ず同意する。異議を唱えたことは一度もない。議論好きで デイべートならドンと来い、の私には 何でも同意されると歯がゆい。しかし、考えてみると、これが自然環境の厳しい、国土の85%が砂漠か荒野で、大きな国土の割に 僅かの人口で 人は誰とでも助け合って行かねば生存できなかった移民の国オーストラリアの人々の 生きる知恵なのかもしれない。

何となく感傷的な気分で、バスに揺られたあと、ロンドンに着いて、あっさり皆と別れる。
街の中心、ホリデーイン メイフィールドに投宿。娘と二人きりになる。夕食の時間になって、もう 好きなものが食べられる。すしだ。スシだ。寿司だ。絶対すしだ。このさい、うなぎとかそばとか刺身とか天ぷらとかの代替食では 絶対許容できない。断固として寿司 妥協なしの寿司だ。地図を見ながら、三越に向かう。自然、早足。そして大食い。

そこから地下鉄に乗り、デパートのハロッズに行く。夜8時半まで開いているのが嬉しい。何となく ツアーのスケジュールから解放されたからか、はしゃいだ気分になって、ハロッズの古風なエスカレーターを上ったり下ったり 果ては用もないのにトイレに入ってみて写真を撮ったりしてみる。 ハロッズのグランドフロアの化粧品売り場は 品ぞろえが豊富で メーカーも揃っていて、初めて見る香水や化粧品なども沢山あって楽しい。何より感心したのは 売り子が皆 すごく美形なのに、にこやかで、フレンドリーで親切で丁寧で品があることだ。 どの売り場も外国人客とか、イギリスでも地方から来た人とか、アラブの大金持ち家族とかで いっぱいだ。
ハロッズの名前のついたコーヒーカップとか買い物袋とか、贈答用チョコレートとかに群がっている。 小さな買い物をしたあとで レジのお姉さん、「お帰りの出口はお解かりですか?」だって。そんなもん、代々親譲りの方向音痴、わかるわけないでしょう。返事を躊躇っていると にこやかに ちゃんと一番近い 駅に行く出口を教えてくれる。親切に感激。売り子さんは、こうでなくちゃあね。ロンドンの田舎物は私達だけじゃないんだ ということも判って安心する。 ちょっと化粧が上手だからって、ツンとお高く留まっているシドニーのデビットジョンズの 頭が空っぽの売り子達、きみ達、本場ロンドンのハロッズで接客のイロハを学んできなさい。 などと、毒を吐いてみる。