2008年6月2日月曜日

フラメンコダンスとアンダルシアの音楽


一年ほど前、スペイン出身の女優 ぺネロぺ クルス(PENELOPE CRUZ)が 映画「VOLVER」邦題「ボナペールー帰郷」という映画を主演した。監督、ペトロ アレモドバル(PETRO ALMODORAR)。

ラ マンチャ地方を舞台にした映画で、母と娘、姉と妹の堅い固い絆を描いた秀作。登場する男達は 飲んだくれで 恥もへったくれもない性欲ばかりのろくでなしばかり。対して、スペイン女達の図太いたくましさ、生命力の旺盛さは、まぶしいばかり。 トム クルルーズと別れてからの、ぺネロぺ クルスが 輝くように美しい。内容はちょっと、腑に落ちないような感じだったけれど。

この映画の中で、ペネロペがこの地方の民謡を歌うシーンがある。ギターをもって、彼女の長い首をすっと伸ばして スペイン独特の哀切に満ちた短調を歌ってきかせる。それがとても良かった。この場面を見るだけのために、この映画を観る価値がある。観ていて、スペインを代表する女優が 素朴で土の香りのする土地の民謡を披露することが出来るのは すごいことだと しみじみ思った。私は日本人だが 詩吟をうなることも、落語を一席きかせることも、大漁節や花笠音頭を歌うことも、三味線や琴を外国人に聞かせてやることもできない。1曲でよいから 外国人が絶対まねのできないような 日本独特の芸をものにしておかなかった自分が悔やまれる。

「PACO PENA FLAMENCO DANCE」「パコ ぺ二ィアとフラメンコダンス」というパフォーマンスを観にいった。シドニーシアター A席 $94.シドニー公演は 5夜のみ。
シドニーのあと、パース、キャンベラ、アデレート、メルボルン、ブリスベン、ゴールドコーストをそれぞれ1晩ずつ駆け足で公演するようだ。ロンドンを根城に音楽活動しているグループ。

6人のミュージシャンと3人のダンサー、計9人のパフォーマンス。
ギター:PACO PENA 、PACO ARRIAGA 、RAFAEL MONTILLA
シンガー:INMACULADA RIVERO 、JOSE ANGEL CARMONA
パーカッション:NACHO LOPEZ
ダンサー:ANGEL MUNOZ , CHARO ESPINO 、MARTINEZ

スペインアンダルシア地方の音楽、ジプシー音楽に限りなく近い。回教徒のメロデイーにも近い。アンダルシアはかつて回教国だった歴史もあるので、これがアンダルシアの音調なのだろう。独特のこぶしのきいた歌いまわし。哀切に満ちた 嘆きの心引き裂かれんばかりの悲しみの歌。それと、激しいスペインのフラメンコダンス。

もう相当のおじいさんのパコは 終始にこやかにすわって、ギターを弾いていたが、大変な迫力、3人でギターをバラバラやられると、ウーンまいった。激しさと 沈黙の使い分けが、鋭利な研いだナイフのよう。
パコがギターを一人で弾いている。そこに、女性ダンサーが現れて 突然 カチカチと、カスタネットを叩く。その瞬間 アンダルシア民謡に命が吹き込まれる。この瞬間が鳥肌が立つほど 間をとらえたものだった。瞬間、観客がオー!と、声をあげていた。 ギターとカスタネットだけの音のかけあいがみごと。カスタネットが自由自在にリズムを変えていき、ギターも負けずに自在にリズムを変化させていく。フラメンコ音楽が激しくメロデイーを奏でて 燃えるように調子が高まり リズムが早くなっていき、その絶頂で ピタリと 音が止まる。こんな 激しい音楽のありように聴いている側は引きずり込まれざるを得ない。

ダンサーも良かった。闘牛士のような服に、赤いマフラーを首に巻いた二人の男達のステップを踏む姿が華麗。スペイン舞踊は男の美しさを見せるための舞踊だ。激しい足踏み 一瞬音が止み 沈黙の中で見せる男の横顔。歌舞伎でいうと 主役が大見得をきるところ がとても良い。

観客は乗りに乗っていた。 ソロダンスで、音楽が止み、無音のなかで、ダンサーが指をならし、踊り始めると、調子に乗った観客が指を鳴らし始めた。会場全体に指を鳴らす音が広がると、自然リズムが遅れ勝ちになる。初めは笑顔で踊っていたダンサーが、踊りながら「静かにー」というジェスチャーをし、観客は、一瞬照れたようにどよめいて、指を鳴らすのをやめる、といった場面があった。ダンサーは迷惑だったろう。これだから、すぐに舞台と観客が一体になって、乗ってくるオージー観客は困り者。だいたいジプシーのリズムに 普通の人が付いて行ける訳がない。しかし、人なつこくて、遠慮なく演奏者のリズムに乗って すぐにはしゃいでしまうオージー体質は、憎めない。日本の舞台では、絶対にお目にかからない場面だ。

胸が引き裂かれんばかりに歌う 哀切の嘆きの歌、それと、フラメンコの激しく力強い 華麗なダンス、、、とても、よいものを観た。