2008年5月12日月曜日

映画「ヒットラーの贋札」


映画「THE COUNTERFEITERS」邦題「ヒットラーの贋札」を観た。

久々に 重いが実のある 良い映画だった。今年見た映画30本位の映画の中で、一番印象深い 見ごたえのある映画だ。

事実をもとにしたドキュメンタリードラマ。オーストラリア映画、ドイツ語、英語字幕。
実際に、彼らが製造した贋札は、130億ポンドで当時の英国の外貨総金額の3倍にもあたる 金額だったそうだ。

監督:ステファンルッオスキー(STEFAN RUZOWITZKY)
2008年アカデミー外国映画作品賞 受賞作。

3人の主要登場人物
贋札作り稀代の職人サリーSOLOMON SOROWITSCHに:KARL MARKOVICS
サリーの仲間 ブルガーに:AUGUST DIEHL
ドイツ将校ヘルツォークに:MARTIN BRMBACK

1936年 ナチ政権下のベルリンで、ユダヤ人サリー(カール マルコビックス)は、地下で、贋札、パスポート、身分証明書の偽造などをしていたが、ナチに捉えられて、強制収容所に送られる。

ナチスドイツは 連合国の経済システムを混乱させ麻痺させるために、ポンドとドルの贋札偽造を計画していた。 ドイツ軍将校のヘルツオークは、印刷技術や、アートに優れた腕をもつ職人を集めて、工場をつくって そこでポンド偽造を始めた。そこに贋札つくりの稀代の天才職人サリーが連れてこられ 責任者に任命される。

集められたユダヤ人のなかで、ブルガー(オーグスト デヒル)は、ロシアから連行されてきたコミュニストのユダヤ人、贋札作りのサボタージュを提案し、ドイツ軍に協力するくらいなら ほかのユダヤ人たちと一緒にガス室に行くと主張して 実際、サリーの仕事の妨害をする。贋札工場に集められたユダヤ人は、ほかの者たちとは格段に良い待遇で、柔らかいベッドや、良い食事が与えられるが、いったん抵抗すれば、いとも簡単に銃殺処刑が、待っている。
サリーは、ドイツ軍将校ヘルツオークに 激しくプレッシャーをかけられながら 黙々と 贋札作りをすすめていく。

実在した人物 サリー(ソロモン ゾロウィック)を演じた カール マルコビックは、シドニーでは テレビ連続刑事ものの番組「インスペクターレックス」で、毎週でてくる おとぼけ刑事をやっている俳優だ。痩せて、背が低く、禿げ上がって あごが滑稽なほど出ている ハンサムとは程遠い俳優だが、テレビ番組では、レックスという名のジャーマンセパード犬が主人公で、毎週起きる殺人事件を解決する。刑事達は、犯人を追い詰めたはずが、逆に追い詰められて倉庫の中で焼き殺されそうになったり、気絶したまま水死しそうになったところで 刑事達より優秀なレックスに助けられ、犯人逮捕にいたり、めでたしめでたしとなる。オーストリアから送られてくる人気テレビ番組で、英語字幕がついている。
しかし、「ヒットラーの贋札」が、アカデミーをとり、カール マルコビックが有名になってしまったため、せっかくのレックスが引っ込んでこの俳優が中心の刑事ものになってしまった。レックスの活躍だけが楽しみだった私には、がーっかり。 しかし、彼は良い俳優だ。この映画に適役。彼の無表情の表情がとても良い。

ナチの命令に出来る限り抵抗しようとしたブルガーと、ナチの命令には卑屈とも思えるほど従順にヘルツオークを喜ばせようとするサリーとは 常に映画の中で対になっている。
しかし ブルガーが サボタージュの責任を問われて銃殺される瞬間を、完璧に仕上げたドル札を手に駆けつけてブルガーの救命をするのはサリーだ。
仲間の中で 絵の上手な少年が結核になって、それをドイツ側に察知されたら殺されるとわかって、ヘルツオークと危険な駆け引きをして結核の薬を手に入れて少年を救命しようとするのもサリーだ。
贋札工場で、誰よりもドイツ軍に従順で卑屈にみえて サリーは贋札工場の責任者として 仲間の誰一人の命も失わずに済むように 奥深く秘めた決意をしていたのだろう。

ドイツ兵が退却し、戦争が終わったことを知ったとき、コミュニスト ブルガーが、大粒のなみだをぼろぼろ落としながら 呆然とたたずむ姿と、サリーの無感情とは、対照的だ。

毎日が死の恐怖と恫喝に中にいた者にとって、終戦、自由、解放、希望、、、など、絵に描いたような道順を歩めるわけがない。

サリーは、解放後、ヘルツオークが隠していた贋札の札束をもって、パリにきて モンテカルロのカジノで 湯水のようにポンドを使い切る。酒も女も金も、彼にとっては 何の意味もない。金を使いきった後、砂浜で海を見つめる彼の目は、何もみていない。絶望以上の絶望をみている。 映画最後の場面だ。

私達は、このような優れた戦争映画によって、たくさんのことを学ぶことができる。
「ソフィーの選択」、「ショアー」などでも、私はたくさんのことを知ることができた。本を読んだり ドキュメンタリーフィルムを見ただけでは わからなかったことを、優れた映画によって、感じ、触り、聞き、味わい 感動することができる。

とても良い映画なので、お勧めする。