2007年11月5日月曜日

ダンブラウン「悪魔と天使」

DAN BROWNの著書「ANGELS AND DEMONS」を読んだ。え、今頃?といわれるかもしれないけど、日本の本は、なかなか手に入らないので。というか、流行に鈍感なので。読むそばから 忘れていくので、これは自分のための備忘録。角川書店 上下700ページ、越前俊弥訳。
ダン ブラウンの「ダビンチコード」は、2003年、「天使と悪魔」はその前の2000年に出版された。 一級のスリラーでありながら 知的、むつかしい宗教上の知識や、最新の科学の情報をわかりやすく解説してくれるので、彼の作品を読んだあとは、なんか自分の知識が増えたみたいに錯覚する。マジシャンみたいな作家。

ストーリーは、 象徴学者のロバート ラングトンは突然スイスにあるセルン(ヨーロッパ原子核研究機構)から呼び出される。スイスからのお迎えは、超高速航空機。たった数時間でボストンージュネーブ間を飛ぶ。世界で初めて大量の反物質の生成に成功した科学者が殺され、反物質が盗まれた。死体には 大昔に消滅したはずの秘密結社イルミナリティの紋章が焼印されていた。反物質は理論上作り得る新しいエネルギーで 放射線の100倍のエネルギー効率をもつ。通常とは逆の電荷を帯びた粒子からなる非常に不安定なエネルギー源、反物質1グラムが 広島に被害をもたらした20キロトンの核爆弾の力と同じ効力を持ったエネルギー。これをもったものは、世界支配も夢でない。

イルミナリテイは ガリレオも会員だった科学者の結社で、カトリック教会から迫害され、消滅されたと思われていた。折しも、ヴァチカンでは、ローマ教皇が突然死したのに伴い 新しい教皇を選出するための、会議がおこなわれていた。イルミナリテイは、盗んだ反物質を使って ヴァチカンを爆破、4人の枢機卿を誘拐して、一人一人公開の場で処刑しようとしている。反物質抽出 生成させた科学者の娘ヴィクトリアは、ロバート ラングドンとともに、ヴァチカンに飛び イルミナリテイと対決。ヴァチカンを救うために、スイス衛兵隊と協力しながら、4人の枢機卿を助け出すべく奔走する、というお話。

基本的には 科学と宗教の対立がテーマだが、「ダビンチコード」でもそうだったが、この作家の書いたものの面白さは、私達が知らないでいたことを スリラーと謎解き小説の形で、とっても丁寧に登場人物の口を通して解説 紹介してくれることだ。 例えば、超高速航空機は、燃料はスラッシュ水素、機体はチタン合金とシリコンカーバイト、推力重量比は ジェット機が7対1なのに、20対1なので、早く飛ぶ。セルン(原子核研究機構)はジュネーブ郊外にあり、世界中の優秀な科学者が集合して居住しているところで、中にはスーパーから映画館まである、とか。ガリレオが 一体何をして、殺されてしまったのか、中世の科学者は どう位置付けられていたのか、イルミナリテイと、フリーメイスン組織の不可解な結束の仕方、など、など。

また、カトリック組織のなかの煩雑な儀式。デビルズアドボケイトという枢機卿達のスキャンダルを調査する調査審問機関。記録保管庫の800ページ布装丁の手書きの台帳。バチカン聖ペトロ教会建設にまつわる ミケランジェロやラファエロの役割と、ベルニーニの役割。バチカンの地図が出ていて、たくさんの教会、美術品が、解説つきで紹介される。

ロバートラングドン教授いわく 、、クリスマスに私達が お祝いするのは、冬至をお祭りしていた太陽崇拝の宗教からの借り物であり、これは、変容ーほかの宗教を制圧する場合 すでにある祭日を改宗の衝撃を和らげようとして、同じ日を祝うようにした結果だ。人々は新し信仰に適応しやすく、礼拝者たちは以前と同じ日を聖なる日として祈り、ただ神をべつの神に替えただけだ。として、聖人の頭にある光輪も 太陽を崇拝する古代エジプトから借りてきたもの、神の顔は ゼウスの古代ギリシャからきたものだ、と結論する。こういった解釈のおもしろさ。

この人の作品、確かに、スリリングな冒険推理小説の世界に、新しい空気を持ち込んだ。「天使と悪魔」、「ダビンチコード」に続いて、第3作が出るそうだ。とっても楽しみ。