2007年6月14日木曜日

ミュージカル 「プリセラ」



ミュージカル「PRISCILLA」を観た。スターシテイー、リリック劇場で、ショー継続中。プレミア席 $96.

1994年、オーストラリア映画「プリシラ」は、その年のアカデミー賞17部門でノミネイトされ、大ヒットとなったが、衣装デザイン賞だけを受賞した。ステファン エリオット監督。 俳優は、「コレクター」のテレンス スタンプが、性転換者のバーナデッド、「ロードオブザリング」「リトルフィッシュ」の ヒューゴ ウィービングが、バイセクシャルの、ミッチ役、「メメント」の ガイ ピアーズが、歌って踊れる若いミュージシャンの、フェリス役をやった。この、すごく豪華な顔あわせで、3人がドラッグクイーンを演じた。 この、映画が素晴らしかった。ヒューゴ ウィービングの女装した、輝くような美しさと 優しいしぐさに、はじめはどうしてもドラッグクイーンだとは信じられなかった。私の最も好きなオーストラリア映画のひとつだ。

今回は、この映画のミュージカル版。 舞台は豪華絢爛、本当に楽しいミュージカルだった。ミュージカルの良さは、オペラと違って、普段着で出かけていって 役者の口からでるジョークに笑い転げ、ヤジを入れたり、アイスクリームをなめながら、観られる気楽さだ。 この日 台風でNSW州は荒れて ニューカッスルでは9人の死者が出たり、そのとばっちりで、娘がシドニーに出て来れなくなったりしたというのに、劇場は満席だった。シドニー唯一のカジノの中にある 劇場なので 地方から遊びに来ている おのぼりさんや、外国からの旅行者もたくさん 観に来ていたようだ。

この、「プリセラ」では、物語が進行している舞台の上で 天井から吊り下げられた3人の女性歌手が、歌を歌っていた。3人ともすごく声量があって、アバや、ビレッジピープルの 80年代のデスコミュージックを、劇場の隅から隅まで 響き渡る美声で 歌い続けていた。 歌って踊れるフェリシア以外の2人の歌は、この3人の歌手が歌い、ベルナデッドと、ミッチは口をあわせているだけだった。まあ、そういう役なんだけど。ミュージックはとても、迫力があって、よかった。

ベルナデッドとミッチと、フェリシアの3人は パブで女装して歌を歌うドラッグクイーンショーをやっている。ミッチは故郷のアリススプリングに残してきた 妻子が気にかかってしかたがない。娘が父親に会いたがっていると、聞いて いてもたってもいられなくなり、ベルナデッドとフェリシアを誘って ショーをしながら、アリススプリングまで バスで行くことにする。バスに名前がプリセラ号と名付け、シドニーを出発する。

旅にでてから、ミッチは初めて、この旅の本当の目的を2人の仲間に告白するところが笑える。「実は、ぼくは昔 結婚してたんだ。」 それを聞いたベルナデッドとフェリシアが おなかを抱えて笑い転げる。フェリシアが「ついでに 子供もあるなんて言い出すんじゃないの?」といって、二人はまた笑い転げるのだが、うちひしがれたミッチの様子を見て、 冗談じゃないとわかって、ベルナデッドはあわてて、なぐさめる。性転換者と、バイセクシャルと、ホモセクシャルの、微妙な行き違いだ。

また、 バスが最初の町、ブロークンヒルに着いて、パブでドラッグクイーンの舞台を始めようとすると、鉄鋼と鉱山の町ブロークンヒルは、19世紀のウェスタンの様相、男はマッチョ、女も男と見間違えるような荒くれものばかりで、およそ、ドラッグクイーンのきらびやかなドレスや、ポップミュージックの雰囲気ではない。その文化の違い 大きなギャップに あわてふためく両者の様子がすごく おかしい。

苦労しながら、アリススプリングに着いた一行は、ミッチの妻子から、心あたたまる受けいれかたをされる。妻の経営するパブでのショーも成功し、恋人と、ここに残ることにしたベルナデッドをおいて、ミッチと娘とフェリシアは、シドニーに向かうところで終わる、ハッピーエンド。

舞台のきらびやかさ、次から次へとダンスと歌と 軽快なジョークがとんで、本当に楽しい舞台だった。男の女装は 妖艶’で、美しい。フェリシア役をやった、俳優は 素晴らしいダンサーで 良い歌手だった。ミュージカルのために生まれてきたみたいな人。名前を忘れてしまったけれど、今度、憶えておこう。

性のかたちは、100人のひとがいれば100の性のかたちがある。それがどんなかたちであっても、どんなに未熟であっても、キリスト教的倫理にあわなくても、人はそれを理由に責めたり 辱めてはならない。性のかたちは、根源的で人間の尊厳に直接関わっているからだ。 3人の美女たちの行き方に、共感をし、一緒に笑い、ほろっとしたりして、帰ってきた。