2007年2月16日金曜日

映画 「THE LAST KING OF SCOTLAND」


イギリス映画 「スコットランド最後の王」を観た。ホイッツで上映中。

同じ、アフリカを題材にした映画「CONSTANT GARDENER」邦題「ナイロビの蜂」と、今、上映中の、「ブラッドダイヤモンド」のふたつの映画がとてもよかったので、アフリカ共通の問題と、過去の血の歴史を持つ ウガンダの現実に肉薄する映画かと 期待していたのに、とても、がっかりした。

「ナイロビの蜂」がケニア、「ブラッドダイヤモンド」がシエラレオーネ と、場所は異なるが、アフリカの貧困をもたらす経済構造と、欧州のエゴイスチックな搾取の結果、取り残された国々の政情不安、一部の豊かな特権階級と、圧倒的多数の国民の貧困、軍の腐敗などは、共通するアフリカの現実だ。

1970年代、イギリスから独立したウガンダでは、イギリスで教育を受けた軍人、イデイ アミンがクーデターを起こし強力な指導力のもとに、独自の外交 政治 経済お牽引した。しかし その残酷非道な独裁力は のち、国連から批判され、失脚した。当時、アミン大統領の専制、独裁は たびたび、ニュースで報道され、政敵を殺して、その人肉を食ってみせるような姿が、世界を震かんさせた。独裁政治による犠牲者は、30万人にのぼる。

これだけの男を映画にしようというのだから、映画監督も 相当覚悟が必要だった。「TOUCHING THE VOID ONE DAY IN SEPTEMBER」でオスカーをとった ケビン マクドナルドが 監督。 そのアミン大統領役の、フォーレスト ウィテカーは、今年のゴールデングローブ主演男優賞をとった。映画の台本は、アミン大統領に気に入られて、大統領付の医師になったニコラス ガーリガンによる手記をもとにしている。

大学の医学部を卒業ばかりのニコラスは、卒業記念に、どこか行ったことのないところに、行って経験を積みたいと考え、ウガンダに着任した。受け入れ先の 海外援助資金で細々と、やっている病院には アメリカ人医師が一人いるだけで、貧しい設備に、予算がなく、満足な治療もできない。理想も、希望も萎えかけたころ、偶然、アミン大統領に出会い、その場で気に入られて、大統領付のおかかえドクターとして、立派な家、メルセデス、イギリスにいたころと変わらない食事などを、提供される。

しかし、大統領の第三夫人に恋をして、関係をもち、最後には、発覚、婦人は手足をもぎ取られ、凄惨なリンチの末 殺されて、ドクターも、リンチをうけながら、奇跡のような形でウガンダから脱出する。

アミン大統領はいったんクーデターから政権を奪取すると、自分の協力者も含めて、30万人もの罪もない人々を 殺しまくった。しかし、この事実に対して、映画では、では何故、ウガンダがこのような怪物モンスターの指導力を必要としたのか という歴史的観点で、見る視点が いっさい ない。
この映画は、単に大統領の妻を寝取った男がひどい目にあった、といっているだけで、何の、メッセージもない。しかし、考えてもみてくれ。大統領が相手でなくたって、モスリム社会で妻を寝取った男は、当然 罪を犯したものとして制裁されるだろう。モスリム社会でなくてもだ。そのために、リンチをうけたって、それが何なのか?アミン大統領による政治が、アフリカにとって、なんだったのか、きちんと検証するべきだ。

この映画は、事実を矮小化している。そして、一番いけないことは、歴史を矮小化していることだ。 だから、この映画、わたしは、誰にも、すすめられない。椎名誠のエッセイ本で、「風に転がるような映画もあった」というのがあったが、そんな感じだ。